エピローグ~ブルームーン~

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できるならこの本を読みたかった。 だが、売っていないのならばどうしようもない。 「そう……ですか」 リュクレーヌはがっくりと肩を落とす。 「何だい、読みたいのかい?いいよ。一晩だけ貸そう」 その様子を見たホテルマンは、同情したのか、本を貸すという。 こんなチャンスはもう無いだろう。 「ありがとうございます!」 リュクレーヌは本を抱きかかえ、部屋へと急いだ。 その夜は、ひたすら『マスカレイド・ラビリンス』を読んだ。一晩で何とか読み切った。 やはり、この本はフランによって書かれたものだ。だが、自分やマスカの記憶を消したはずなのに何故? リュクレーヌにはそれだけが謎だった。 こうしてはいられない。 確かめなければならない。   翌朝、リュクレーヌは朝一番でフロントへと向かった。 「チェックアウトで」 「おや、昨日の」 フロントに居たホテルマンは昨日本を貸してくれた彼であった。 丁度いい、とリュクレーヌは本を手渡し、礼を言う。 「これ、ありがとうございました。とっても面白かったです」 「あぁ、それは良かった。そうだ、本日はどちらへ?」 チェックアウト時の世間話。 行先を訊かれる。 決まっていた。 今日は── 「ちょっと、ロンドンまで行く用事が出来てしまいました」 そう言ってリュクレーヌは笑って見せた。  
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