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28.薔薇の耽血
僅かな空中遊泳の後、美汪が着地したのは王域で作り上げられた巨城の屋上だった。
「フルムーンの夜は特別なことが起きると言われている。今夜そうであることを、あえて運命的だと思いたい」
そこから見えるものは、真っ暗な空と月のみである。
穏花は抱きかかえられた体勢のまま、冷たい石の地面にそっと降ろされた。
「服を脱いで」
「——エッ!?」
美汪の口から出たとは思えない台詞に、穏花は相変わらず素直な反応を示した。
「えっ、え!? い、いいきなりどうしたの!?」
「僕のことが好きなんでしょ? なら我慢しなよ」
「いやっ、す、好きだけど、好きだから嫌というか、恥ずかしいというか、私ペチャパイだし、今日の下着可愛くないし……」
このシリアスな雰囲気で、なぜそんな発想が浮かぶのかと疑問な美汪だったが、的外れな言動をする穏花も可愛いと思ってしまう自身にあきれた。
仕方がない、愛してしまったのだ。
人を好きになるのは理屈ではなく、もはや本能だと美汪は身を持って知った。
「……恐らくは、棘病を完治させる方法を見つけたんだ。そのために必要なことなんだよ」
「——えっ!? ほ、本当に? そう、なんだ……!?」
「何? いやらしい展開でも期待した?」
「は、ひやふえへあえあ……」
からかうようにニヒルな笑みを浮かべた美汪は憎らしいほど色っぽく、穏花は顔から火が出る勢いで解読不可能な文字を連ねていた。
「下着はつけたままでかまわない、王域で守られているから寒くはないはずだよ」
「う、うん、わかった……!」
穏花は意を決して、美汪に言われた通り下着以外の衣類を脱ぎ払った。
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