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薄いオレンジのブラとショーツ姿になった穏花は、胸を両腕で隠しながら座ったまま立っている美汪を見上げた。
初恋相手の半裸はこれほど視覚を刺激するのかと驚いた美汪は、静かに深呼吸をして欲を鎮めた。
沈黙を守ったまま、美汪はズボンのポケットに手を入れ、あるものを取り出した。
それを見た穏花は、目を見開き、戸惑った。彼が持っていたのは、折りたたみ式のナイフだった。
美汪はシャツを肘までまくり、それを開くと、集中し、銀色の刃先を自身の左腕へと当てた。
次の行動を予想した穏花の制止する声よりも早く、その鋭い刃は彼の白い肌を切り裂いた——。
「美汪、やめ——……!?」
————はらり
刹那、何かが、額に触れた気がして、穏花は言葉を失った。
はら はら はらり
満月を背景に立った美汪の、切り裂いた腕の傷口から、溢れ出たのは赤い液体ではなかった。
穏花はただただ、美汪を見つめていた。
濡れたように煌めく真紅の瞳と、獣に似た牙、そして彼自身から舞い降りる鮮血より紅い、薔薇の花弁たちを————。
「毒には毒を、血には血を、花には花を……、吸血族が生み出した病は、吸血族にしか治せないと僕は結論を出した」
吸血族には古い言い伝えがあった。
吸血族にとって自傷行為は最も罪深きもの、故に、“禁じ手”と呼ばれていた。
美汪は今までのことを踏まえ、整理し、棘病を治すには、これしかないと考えたのだ。
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