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29.迷路
穏花はあれから美汪に一週間、家にこもり外出は控えろと言われたため、それに従い学校を休んでいた。
一週間、一枚も花弁を吐かないなら、恐らく棘病が完治したと言える、と。正確な結果を得るため、治療後は他の感染症にかからないよう、室内で安静にという意味だった。
穏花は毎日祈るような気持ちで過ごし、ついにその一週間後を迎えた。
十二月に入り、冬が濃くなった雪降る朝、穏花はすっきりとした頭で目覚めた。
棘病を患ってから、体調が不安定で、花を吐かなくても何か胸につっかえがあるような、気分がよくなく、だるいことが頻繁に起きていた。
しかし今朝はその重さが嘘のように、身体が軽かったのだ。
まるで自分の中にあった悪い何かが、綺麗さっぱり消え失せたような——。
穏花はベッドから飛び起きると、丸い手鏡を持ち、そこに映った顔をまじまじと見つめた。
顔色もいい。体調がすこぶるいい。
一週間、花の欠片すら吐かなかった。
「…………なお、った……?」
穏花は信じられない気持ちで、喜びに打ち震えた。
そして鏡を放り出す勢いで両手を上げると、その場に何度もジャンプした。
「——やった……ぃやったあああああ!!」
下の階から何事かと、従姉妹の双子から「どうしたの、穏花お姉ちゃんうるさーい!」と注意の声が飛んできた。
しかし、そんな言葉は今の穏花の耳には入らない。
末期の薔薇の症状に、てっきりもう助からないと思い込んでいた穏花は、この喜びを伝えたくて仕方がなかった。
もちろん、相手は彼しかいない。
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