29.迷路

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 穏花は急いで制服を着ると、茶色のダッフルコートを羽織り、温かなマフラーと手袋をして家を飛び出した。 「美汪っ、美汪っ……早く、早く会いたいっ……!!」  嬉しさのあまり心の声が思わず口に出る。  この一週間、美汪に会えない時間は穏花にとってとてつもなく長く感じた。  スマートフォンの通話アプリのメッセージでやり取りはしていたが、やはり面と向かって話すのとはまったく違う。  穏花は美汪の顔をずっと思い浮かべながら、またあの目で見つめられ、あの声をかけられる時を待ち詫びていたのだ。  そして叶うなら、もう一度——いや、何度も何度も、数えるのが億劫になるほど、触れてほしいと思っていた。  美汪に会ったらまずなんて言おう? 驚かせてみようかな? などと、少し悪戯っ子のような気持ちで、穏花は教室のドアを開けた。 「おはよう、穏花、今日早いわね」 「おはよー、みっちゃん!」  最初に目に入ったのはみちるだった。  みちるは優等生で、いつも朝が早い。  他の生徒たちはまだ少なく、張り切って早く登校しすぎたかな、と穏花は自分にあきれ笑いをした。 「どうしたの? なんだかやけにテンションが高いわね。何かいいことでもあった?」 「え? あ……うん、ちょっとね!? えへへ」  穏花は、みちるにもたくさん心配をかけたから後で報告しないと、と思いながらだらしなく笑っていた。  もうすぐ美汪に会えると思うと、どうしようもなく顔の筋肉が緩んだのだ。
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