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「聞いてよ、圭太。穏花ったらまだ寝ぼけてるみたいで、黒川君か、みよちゃんって子を探してるみたい」
みちるにそう言われると、圭太は一瞬キョトンとした後、穏花を見て豪快に笑った。
「ははっ! そうなんだ? 起きてくださいよ穏花姫〜、そんな生徒聞いたことありませんよーぉ」
おどけるように言う圭太に、穏花は身体を硬めた。
鼓動が少しずつ、早くなり、耳に響いていくのがわかる。
担任教師が教室に入り朝のホームルームが始まっても、美汪はまだ来なかった。
出席を取る際、黒川の名字は呼ばれなかった。
礼が終わると、穏花は教室から出て行く担任を急いで追い、声をかけた。
「あのっ、先生!」
「うん? どうした萌木」
「あ、あの……黒川美汪、君は、今日は休み、なんでしょうか? なぜか、出席を取る時も名前を呼ばれなかったですけど……」
若い男の担任教師は怪訝そうに眉を寄せた。
「……何言ってるんだ、うちのクラスに……いや、この校内にそんな名前の人間はいないぞ。くだらない冗談を言ってないで、しっかり勉強しなさい」
そう言って、教師は穏花に背を向けると廊下を歩いて行った。
無慈悲に放たれたその言葉は穏花の胸を冷たく貫き、地面に根っこが生えたように、そこから動けなくなった。
穏花は出口のない暗い迷路に迷い込んだようだった。
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