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30.命の告白
何が起きているのか、とても思考がついていかず、抜け殻のようになった穏花は、昼休みに無言で学校を出た。
美汪がいたはずの席、ロッカー、靴箱、すべてがなくなり、まるで彼は最初からいない者のように扱われていた。
穏花の足はふらふらと、ある場所に向かっていた。
朝よりもずっと雪が深くなり、積もったそれに足を取られそうになりながら、穏花はブナ森林を目指していた。
積雪のせいで電車が動かなかったため、穏花は二時間かけ、徒歩で目的地に着いた。
薄曇りの空からは、絶えず粉雪がしんしんと降り注ぎ、穏花の頭からつま先までも熱を奪ってゆく。
穏花は引き寄せられるようにここに来ていた。
美汪とのすべてが始まった場所。
ここに来れば、何かがわかる、きっとまた美汪に会えると本能が彼女を突き動かしていた。
辺り一面、白銀色の世界だった。
舞い降りた氷の粒たちは大地すべてに白い化粧をし、ブナの木の枝は雪の花を咲かせたように輝いていた。
しかし、穏花はそんな絶景に目もくれず、ひたすらに足を動かした。
前に進め、前に進め、寒さに足の感覚がなくなっても、止まることはなかった。
ようやく行き着いたのは、美汪が招いてくれた、大きな城があった場所。
だが、今はもうそこには、何も見えなかった。
「——穏花お嬢様」
聞き覚えのある声がして、穏花は目を剥いて振り返った。
そこに立っていたのは、グレーのロングコートを身に纏った、老紳士だった。
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