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「ぼっちゃまは、あなた様が気を失い、眠りにつかれていた間、城に住む私たち全員を集められました」
やめて、ヤメテ、聞きたくナイ、と、穏花の細胞が叫ぶ。
「そしてこう言われたのです。『命を捧げたい女性ができた。君たちを捨てることを許してほしい』と」
穏花の世界が、白く消し飛んだ。
「ぼっちゃまがいなくなったことで、王域で守られていた私や混血たちが闇に葬られるのは時間の問題でしょう。しかし、そんなことはかまいません。私どもはぼっちゃまに頼りすぎていたのです。元よりあの方がいなければとうの昔に尽きていた命。ぼっちゃまに恥じぬよう、潔く散ってみせましょう。もちろん他の者たちも、誰一人異論を唱えませんでした。……あの誰より誇り高いぼっちゃまが、頭を下げられたのですから」
コーエンの話は、穏花の耳に確かに届いていた。
しかしそれは遠くに聞こえるぼやけた音で、穏花は反応することができなかった。
「ぼっちゃまは言われなかったでしょうが、吸血族にとって自傷行為は大罪だと禁じられていました。なぜなら、僅かでも自分で自分を傷つけることは、命に関わるからです。あなた様を救うには、それしか手段がないと知った時、ぼっちゃまは清々しい顔をされていました。……理由はもう、おわかりでしょう」
依然と立ち尽くしたままの穏花に、コーエンは精一杯微笑んだ。
「罪に思わないでください。あなた様は誰にもできなかった、あの方の魂の救済をしたのですから。……ぼっちゃまが繋いだ命です。どうか大切になさってください……自分とは無理でも、他の誰かと幸せに……美汪ぼっちゃまはそういう方です。……では、私はこれで、混血たちが待っていますので」
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