制服の胸のボタンを

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「『リコーダー・アンサンブル』がどういうものかよくわからない人がほとんどでしょう。リコーダーには、皆さんが小学校の音楽の授業で習っていた『ソプラノ』に、中学から習う『アルト』リコーダー。そして、『テナー』『バス』と言って四種類あります。大きさががその順番に大きくなり、形が異なります。運指と言ってリコーダーを吹くときの指の使い方が、ソプラノとテナーが同じで、アルトとバスが同じですが、ソプラノ・テナーとアルト・バスとは違う指の使い方をします」  よどみなく、河合先輩は話す。 「リコーダー・アンサンブルはこれらの笛を複数で奏でます。簡単に言えば合奏です。笛の音を合わせ、奏でることです。大事なのは、皆さんの心を一つにして、音楽を奏でることです。奏でる心をこれから培い、一緒にリコーダーの世界を楽しんでいきましょう」 『奏でる』という言葉を河合先輩は強調していた。  奏でる……なんて綺麗な響きなんだろう……。   誰からともなくパチパチと拍手が起こり、鳴り響く。 河合先輩は軽く頭を下げた。  私は、そんな先輩の姿にやはり目が釘付けになっていた。  ◇◆◇ 「あー、今日もハードだわ」  体操服姿で更衣室へと向かいながら、侑里ちゃんがそうこぼす。 「リコーダー部って何? 気楽な部活動だとばっかり思ってたのに……」 「ほんと……。まさか陸トレがあるなんて誰も思わないよね……」  私もへとへとになりながら呟く。  リコーダー部の活動と言えば、優雅で呑気な室内楽のように思っていたけれど、実は全く違っていた。  広い音域で豊かな音色を出す為に必要な腹筋を鍛える為、ジョキング、腹筋運動など陸トレが必須なのだ。それは新入生誰しも予想していなかった。 「でも、咲来は『ピッチ』はすぐ慣れたよね」 「音合わせ? うん。あれはなんとなく……勘で」  制服へと着替えながら私は言った。  リコーダー部の活動……それは運動部かというようなトレーニングに取り組んだ後、ようやく楽器(リコーダー)の練習に入るのだが、まずは『ピッチ』という音階練習の音合わせから始まる。Cマイナーから順番に音を出し、音程を皆で合わせるのだ。  陸トレが終わり、リコーダーに触れてもまず最初はこのピッチの練習があり、部員全員の音程が完全に合うまでは譜読みもさせてもらえない。
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