第三章

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「ありがとう、助かったよ」 「はい、どういたしまして」  クリスに礼を言いながらも、ラザレスの様子が気になる。ロルーは起き上がって傍に寄るが、同じ距離だけラザレスもロルーから離れ、さっさと先へ進んでいく。結果として速足で街道を進み始めた二人に続いて、カイトとクリスも再出発する形になった。 「ねえ、ラザレス」  ラザレスはやはり答えない。 「ラザレス、怪我、なかった?」 「……」 「なんでそんなに機嫌悪いの?」  それまで全くの無反応だったラザレスは急にぐるりと振り返った。 「俺が理由もなく勝手にいらだっているような言い方はやめろ」  言いたいことだけ言うと、ラザレスはまた背を向ける。ロルーは唇をとがらせた。 「今のこと、謝れって言ってる?」 「それだけじゃない。毒見の件も、囮の件もそうだ」  毒見と言われて、ロルーは反応が遅れた。少しして、クリスからの保存食をロルーが先に口にして、ラザレスが怒っていたのを思い出す。もう随分前のことのように思える。ロルーが忘れていたようなことでも、ラザレスは根に持っているらしい。 「私は間違ったことなんてしてないよ」 「それなら、交渉の余地はない」 「あの場ではああするのが最善だった。ラザレスが私と同じ怪我をしたら、死んでいたかもしれない。私なら傷を負ってもすぐに治る。何が間違ってるの? 私をかばおうとしてくれているのはありがたいけど、一番守らなきゃいけないのはラザレスなんだから」  ラザレスは、唐突に短剣を取り出した。そして、全く躊躇いなく自分の左腕を切り裂いてしまう。止める暇もなかった。ロルーは悲鳴を上げた。 「ラザレス!」 「平気だ。クリスがすぐに治せる。魔法がなくても、止血はできる」 「そういう問題じゃない!」 「そういう問題だ」  どこをどう切ったのか、とんでもない勢いで血が噴き出している。ラザレスの顔色が血の気を失って白くなっていく。 「サングランでも頭部を損傷すれば傷は癒えない。魔物も、アルビオンの騎士も、その弱点をよく知っている。お前は自分で思うほど万能ではない。人間と変わらない」 「そんなこと」  人間と変わらないというのは言いすぎだ、と反論しようとしたが、話をしている間にも、ラザレスの腕から血がとめどなく溢れている。今は言い争いをしている場合ではない。 「わかった。私が悪かった。本当にごめん、反省してる。だから早く傷を治そう」 「誠意が感じられない」 「脅迫じゃないか、こんなの!」
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