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「お父さん、雨だよ! ほら、お外見て! そらほたる! そらほたる見に行こう!」
空蛍、という言葉には覚えがあった。この辺りでは夏の雨の日に見られる虫で、幻想的な青い光を放つのだという。ラザレスはこの村にやってきて初めての夏を迎えたので、当然ながら、見たことがない。そう言うと、ロルーは絶対に一緒に見に行こうと熱心に話してくれたのだった。彼女は空蛍という虫が好きなのだろうということが、すぐにわかった。彼女の好きなものを一緒に見たかったので、ラザレスはうなずいた。
ラザレスはロルーを追うようにして部屋を出て、一階へと降りる。すると、すでに羽ペンを片手に書付を読んでいる、ロルーの父、シルヴァンの姿があった。まだ二十をいくつか過ぎたくらいの若い父親は、ロルーを見つけると筆記具を置いて腕を広げた。彼はロルーとは違う銀の髪だが、その目はロルーと同じ明るい空色をしている。
元気よく腕の中に飛び込んで来た娘を優しく見つめながら、シルヴァンは言った。
「おはよう。朝から元気だなあ」
「ねえ、お父さん、いいでしょ」
「わかったわかった。それより、朝の挨拶はどうした?」
「おはようございます!」
「はい、よくできました」
シルヴァンは大きな手でロルーの小さな頭を撫でた。ロルーが嬉しそうに笑っている。
「ねえ、お出かけは?」
「そうだな。今日はラザレスを連れて、空蛍を見に行こう」
「やったあ!」
ロルーは、降りてきたラザレスの姿を見つけるなり駆け寄ってきた。
「今日はね、お出かけしよう」
「お出かけ?」
「空蛍、見たことないって言ってたでしょ。今日ならきっときれいに見えるから、行こう!」
その時、家の入口の扉が開いた。
「賑やかですね。何かいいことがあったんですか?」
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