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「それに、今更お前もジルドもいない王宮に帰っても意味がない」
「……ジルドは一層戻れませんね。それこそ、処刑されてもおかしくはない」
「そうだな。そう言っていた。二度とロイアレスの地を踏むことはないだろうとも」
「彼は今?」
「ロルーと共にいる」
この話が始まって初めてロルーの名を出した。ラザレスは、あの後彼女に何が起きたのかをかいつまんで話した。全て聞き終えたクリスは、ゆっくりとうなずいた。
「彼女があなたに魔力を返すであろうことは、想像がついていました」
「そうなのか。何か言っていたのか」
「いいえ。具体的なお話を聞いたわけではないんです。ロルーは私にもあなたにも、最後の瞬間まで隠しておくつもりでいたのだと思います。そうでないと、止められてしまうから。でも、なんとなく、彼女がそうするつもりなのではないかと感じました」
「……俺は全く気が付かなかった。お前が何か話したのではないかと疑った。すまなかった」
「いえ、もし追及されていたら、そうなっていたかもしれません。でも、彼女はそうしなかった。あまりにも受け入れが早すぎると感じました」
「そうか」
「ただ、人喰いのことまでは思いもよらなかった。まさか彼女がラザレスを……どれほど辛い思いをしたことか。あなたが無事であったことが、せめてもの救いです」
クリスはため息をつきながら、そっと暖炉に近づいて手をかざした。少しだけ炎が強くなり、部屋が暖かくなる。それを眺めて、ラザレスは呟いた。
「魔法は、今までどおり使えるのか」
「え?」
ロルーの話をしていたのに、突然自分の話になって驚いたのだろう。クリスは何度も瞬きをした。
「はい。魔力は以前よりも増幅したように感じます。もう少し暖かいほうがよろしいですか?」
「いや……大きな魔法が使えないということは?」
「機会がないので使ってみたことはありませんが、そのようなことはないかと。以前の私ができていたことであれば、今でも可能だと思います」
ラザレスは目を伏せた。暗い目だ。しかし、何か重大な決断をしたときのような顔つきでもある。
「クリス、頼みがある」
「今の私でできることなら、なんなりと」
クリスは自分でそう言ったことを、直後に後悔した。
「俺にサングラン化の呪詛をかけてほしい」
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