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第一章
朝、ラザレスが目を覚ますと、雨が降っていた。
窓の外には、夏の農村を彩る緑が色濃く見える。つい先日までは、雨が降ろうものならたちまち凍えてしまうような寒さだったが、今ではもう、この雨の匂う空気が温かい。きっと野宿でも凍死することはないのだろうが、ラザレスは今日も屋根のある家の中で柔らかなベッドにいる。
この生活が始まってしばらく経ったが、まだ慣れない。あまりにも恵まれ過ぎていて、目が覚めたら夢だったと気づいて落胆することになるのではないかと、怖くて眠れない夜もある。ラザレスはまだ三歳にしかならないが、その年齢に不釣り合いなほど思慮深すぎる子供でもあった。
ラザレスが窓の外を眺めていると、隣で眠っていた少女、ロルーがうめき声を上げた。ラザレスと同じ年頃のその少女は、小さな体でベッドの上を転がっている。その時初めてラザレスは、二人で使っていたかけ布を、自分が起きたことによってはがしてしまったことに気付いた。
「ごめん。起こしちゃった」
「ううん、平気。おはよう」
ロルーは大きなあくびをして、小さな体をうんと伸ばして起き上がった。とろんとした目は綺麗な空色をしている。ラザレスはそれを初めて見た時、宝石のようだと思った。この地域では珍しい特徴ではないのだが、彼の周りにこのような目をした人間はいなかったのだ。
ロルーは、ふと、窓の外を見る。
「雨?」
「うん、雨」
少女はしばらく眠い目をこすっていたが、ふと気づいたように顔を上げた。
「雨!」
ロルーは突然覚醒した。ベッドから転がり落ちるように跳ね起きると、お父さん、お父さん、と言いながらばたばたと部屋を飛び出した。まだ目覚めたばかりでぼんやりとしていたラザレスは、口を開けてそれを見送った。
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