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Episode39:お嬢さまはつまらない
そうこうしている内に、バーチャルマシンに戦士たちが乗り込む。
黒鳥たちと小太郎・愛奈・健人・田原・カオルの混成メンバー。
本体のコンソールは楢井先生が受け持ち、各戦士たちは次々と外界遮断カバーを下ろして仮想空間へダイブしていく。
気乗りしていなかったカオルはひな子の方を向いて『真澄をたのんます』と一言いうと、仲間たちの待つ仮想空間へと旅だった。
そのとき、カオルの目線がひな子の後ろにいた人物へ向かっていたのはご愛嬌。
建前上そう言ったのであって、何かあったところで女一人で何ができるとまではおもってないのだろうと分析してみる。
(それでも、やや気弱な真澄さんよりわたくしの方が頼りになりますわよ!)
などと心の中でマウントする。
当の本人である真澄は、ネットにつながらなくなったことの方が精神的なダメージらしく、今もジッと情報端末に目をやっていた。
裕也の方は、使えないならそれでいいやと楽天的な思考のようで、これから始まるクローンモード戦を観戦できる大型ディスプレイをワクワクしながら眺めている。
戦技研で一人だけ残ったラブは、元々クローンモード競技に参加しているわけじゃなく、マネージャー兼マスコットキャラ(自称)らしく、ちょっと長くデコデコの自分のつけ爪を見つめていた。
ひな子はウンザリした面持ちでディスプレイを眺める。
本心では小太郎たちが黒鳥たちに勝とうが負けようが興味はない。
お互いクローンモード戦をやって気が済むなら好きにしろ、とも思っている。
こういうスポーツ的な戦いは好きじゃない。
だがやりたい者を否定する気もない。
(重傷や身体欠損、死亡などなければ、どうということもないでしょう)
――所詮ただの遊びだ。
ひな子がボンヤリそんなことを考えていると、ディスプレイに仮想空間へダイブした者たちが姿をあらわす。
こちらで作戦会議もしていない状況であった小太郎たちは、戦技研の部長でありクローンモード競技の団体戦リーダーでもある田原の指示に従ってフォーメーションを組む。
ちなみにチームごとの会話は、相手チームには聞こえない。
両チームの音声は、ディスプレイで観戦している人たちには聞こえる寸法だ。
戦闘開始は五分後。
バーチャルマシンがその辺のスケジュール処理をしてくれている。
この時間内にどれだけ話し合い、チームワークをものにするかで黒鳥たちに勝てるか勝敗が決まる。
所詮は寄せ集め集団。
黒鳥たちの方が、はるかにチームワーク力が高いはずだ。
チーム戦の勝利条件は、相手の陣に掲げられた旗を奪い自陣へ持ち帰るか、相手チームすべての殲滅である。
そのことを踏まえて田原と健人が後衛として自陣の防衛。
小太郎と愛奈とカオルが前衛として敵陣へ突入し、相手方の旗を奪う。
本来はもう少し戦士の特徴や動きに合わせた配置にするそうだが、即席メンバーだとチームワークにバラつきが出てくるので、日頃から割と仲の良いメンバーと組む方が勝率が上がりやすい。
田原自身も勝つ見込みが薄いのは分かっているが、それでも少ない勝利のパーセントにかけている。
個人戦よりチーム戦の方がクローンモード競技では難しい。
「前衛はできるだけ三人で各個撃破に努めて欲しい。……とは言っても、黒鳥たちは最初っから五人で前衛を潰してくると思うがな」
黒鳥たちは大勢で少数をいたぶることが好きなようだ。
だから正々堂々と一騎打ちなどということにはならないと断言できる。
「クローンモード競技からしばらく離れていたが、家ではプレイしてたんだ。簡単には負けたりしない」
「小太郎、チーム戦なんだからみんなに合わせて!」
「分かってる!」
「河本くん、少しリラックスしよう」
逸る気持ちを抑えられないのか、小太郎はギリギリと歯を鳴らす。
そこへクローンモード競技に慣れている愛奈が注意したあと、冒険会の会長である健人がなだめるように声をかけていた。
「あらあら~。若者の青春ってカンジでェ、センセーちょっと嫉妬しちゃう~」
冒険会の部屋のバーチャルマシンの親機のそばから、仮想空間が映し出されているディスプレイをニコニコと眺めて楢井先生は身体を揺さぶりながらウフフンと茶化す。
(この先生は、一々胸を揺らさないと気がすまないの?)
作ったようなしぐさが煩わしい。
一体、誰に向かって媚を売ってるのか。
ひな子がそんなことを思って顔をしかめていると、となりの真澄と裕也の目線はディスプレイではなく、先生の胸の方へ向いていた。
(――効果は一応あるのですか……)
そう言えば、お爺さまの秘蔵の書物【オトコの本音、全部みせます】というタイトルにも、『男は好きな女性でなくとも、性的な興奮を起こす』とありましたね。
あながち間違いはない。
その部分は肯定しておく。
うんうんと頭を上下に振って、ひな子が脳内一人会議のようなことで暇つぶしをしていると、開始へのカウントダウンが始まっていた。
そして《Ready Go!!》の合図とともに、各チームが一斉に動きだす。
「キャーッ!カズくんガンバー!!」
戦闘が始まるとディスプレイの前でラブが、田原への応援の声を上げた。
真澄は腕を下ろし手をギュッと握りしめる。
そのよこで裕也がどこから持ってきたのか、ポテチの袋を開けてパリパリと食べだした。
冒険会の部屋に入ってからひな子の首の後ろに隠れていた、アシストロボットのヒナタが耳元でささやく。
《この部屋一帯のセキュリティーシステムが機能していません》
と―――――。
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