骨の髄まで、

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顔を洗って、榊に 渡されたフワフワの タオルで顔を拭いて、 私は天蓋付きのベッドの 前に立ちました。 榊は私の制服を 持ってきます。 「失礼いたします、 すずお嬢様。」 着替えは、いつも榊に 手伝ってもらうの。 もう、私も16歳。 男の人に肌を晒すのは おかしなことなのかも しれません。 でも、ずーーーっと 昔からこうなのです。 だから、 何も感じないのです。 だって、榊は ただの“執事”です。 私のパジャマのボタンを 開ける榊を、私は淡々と 見下ろしました。 スルリとパジャマが 床に落ちて、 下着だけの、私。 榊はカッターシャツを 手に取ります。 「すずお嬢様、 腕、よろしいですか。」 「…うん。」 榊の白手袋が私の 素肌をかすめて、 榊と目が合いました。 「どうなさいました?」 「ううん。 榊は、いつ見ても、 シャキッとしてるなって。 寝癖とかないなぁ、って。」 「もちろんでございます。 大切なすずお嬢様の 前に出るのに、 そのような身だしなみの 乱れや、失礼があっては いけません。 さ、お嬢様はその酷い 寝癖を直しましょうか。」 ニコッと悪戯っぽく 笑う榊を見て、私は、 「もうっ、」 とそっぽ向きました。 今このタイミングで 酷い寝癖を直しましょう だなんて、 榊はちょっとだけ 一言多いです。 ドレッサーの前に座ると、 榊が丁寧に私の髪を ブローし始めました。 「榊の髪って、綺麗よね。」 鏡越しに榊を見上げて 私は言いました。 はらりとかかる前髪が 少しだけ、色っぽい。 榊は首を横に振ります。 「とんでもない。 私はこの、お嬢様の黒髪が 1番美しいと思います。 お嬢様のような 青みがかった黒髪は、 『濡烏(ぬれがらす)』と いうのですが、 これは大和撫子の理想的な 髪色でございます。 日本人はみな黒髪と 言いますが、 実際は少し茶色がかって いたりして、 本当に綺麗な 『黒髪』の方は滅多に いらっしゃいません。」 「そう? 榊がいつもケアして くれるからかな。」 「光栄でございます。 お嬢様の寝癖の酷い髪を 毎朝整えるのには苦労 いたしますが、 今の言葉で報われました。」 ふっ、と余裕のある 笑みを見せる榊。 ほんと、失礼しちゃう。
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