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見下ろした小夜は震えがひどすぎて、奇妙なダンスを踊っているみたいだった。息遣いはふいごのようで、わたしの耳には、割れ鐘のような鼓動のリズムがはっきりと聞き取れるほどだった。
わたしは舌先で小夜の影を撫でた。アドレナリンの影響で、手脚は冷え切っていた。対照的に胸の中では炎が燃えているようだった。肺が震え、炎の中心で燃えさかっているのは、火の宝石のような心臓だった。
彼女をやり過ごしてから、わたしは大楠から飛び降りた。四つん這いで着地をして、コソッとも音は発てなかった。そのまま、地を這うような姿勢のまま、わたしは彼女の後を付いていった。
湿った腐葉土の匂いが、低くなった鼻先に漂ってきて、虫たちが狂ったように逃げ出す様も、わたしは匂いで見た。
小夜の足取りは極端に遅くなっていた。一歩を踏み出しては、立ち止まる。梢を抜けてくる月明かりだけでは、彼女には何も見えないのだ。精一杯突き出された両手が、闇の中をまさぐるけれど、それは空しい行為だった。直接触れない限り、彼女には何も分からないのだから。伸ばした指の、わずか一センチ先の木の枝に引っかかってしまう。
小夜はなんのために、こんなことをしているのだろう?
また、遠くのわたしが首を傾げた。
けれど、今のわたしに取って、意味があることは小夜の行動が好都合だということだけだった。
なぜなら、わたしは小夜を殺さなければならないのだから。
わたしは小夜を殺さなければならない。
花音が、わたしに小夜を殺すよう命じたのだから。
花音が、わたしに小夜を殺すよう命じたのだから。
わたしは花音に命じられたら何でもする。
だから、わたしは小夜を殺す。
わたしは小夜を殺す。
小夜を殺す。
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