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遊ぼ
姉さんが出ていってしまってから、あたしは父さんたちの部屋に行って、〈本〉を投げ込んだ。もう二度と、〈本〉を見たくなかった。
投げ付けた瞬間、なぜか〈本〉が血まみれのウサギに見えて、あたしは目を瞬いた。けれど見返したそれは、やっぱり〈本〉にしか見えなくて、それだけじゃなく余計な仕草をしたせいで、窓が見えてしまった。
坂の上ではあたしの顔をしたヒドラが、三匹も踊るように身をくねらせていた。あたしはドアを叩きつけるようにして閉めて、部屋を出た。おかげで、二の腕にいつの間にかできていた噛み傷がひどく痛んだ。
そのまま自分の部屋に戻って、寝てしまえばいいのに、どうしてもそうできなくて、リビングへ降りてきた。逃げ込むように、片隅へ行って、頭を抱えた。そうしたら、もう動けなかった。
どうしてこの部屋に来てしまったんだろう? 目の前にはビーズクッションがあって、背中の方には薄型のテレビがある。子どもの頃のあたしの指定席。あたしはここで、いつも薄型のテレビにシンパシーを覚えてた。だって、お互いに見てはもらえても、興味は持ってもらえなかったから。でも、テレビはものだ。あたしはものじゃない。
ほんとうなら、あたしの隣には姉さんがいるべきで、あたしと傷口の舐めあいをしていなければいけなかった。
けれど、姉さんは居なかった。いつも独りで、キッチンカウンター前のスツールに座って、足をぶらぶらさせてた。目が合うとあたしを手招きしたりした。行きたかったよ、姉さん。でも行けなかった。絶対に。
だって、あいつらが姉さんを見て、笑ってたから。
あいつらが顔を傾けて、ときには指まで指して、姉さんを見て、微笑んだから。
父さんも。母さんも。
あたしのことなんか、見えてても、見えてなかったくせに。
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