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リビングのハイサッシからは春の庭がよく見える。ハナミズキは盛りだし、母さんが植えた春の花たちは、ろくな手入れもされてないのに、きれいな花を咲かせている。丹精を込めて世話をしていた母さんが、これを見たらなんと言うだろう。ふくれっ面でもしてみせるだろうか。父さんに膨らませた、その頬を突いてもらうために。
あああああ、地獄に堕ちればいい。
けれど、もしかしたら、この花を見る人はもうすぐいなくなるかも知れない。
もしかしたら、花さえもなくなるのかも知れない。
黒や濃い紫をした、こぶだらけのツタや、棘だらけの木の枝だが、この庭も覆い尽くすようになるのかも知れない。
その合間を、姉さんの身体から出てきたような、醜悪な化け物たちが這い回る。
はは。はははははは。
それはいい。最高じゃない。最高、最高だよ……。
自分ではどうにもできない――やめろ、やめろ、やめろぉ。
あたしはもう一度頭を強く振り、キッチンへ向かった。喉が渇いていたし、二の腕の噛み傷が痛くて仕方がない。
そのとき、あたしの目の前に何かが落ちてきた。床に転がったそれを見て、最初は芋虫かと思った。ピンク色をした細い芋虫。
けれど、端っこに光る部分があった。――爪、だ。
爪の生えた芋虫なんていない。だから、それは芋虫じゃない。じゃあ、なんだろう? ――人の指だ。
あたしは吹き抜けの上を見た。
姉さんがそこにいた。
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