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吹き抜けの上の天井に、逆さになって、姉さんが張り付いていた。
悲鳴が、あたしの喉から漏れた。緩んだパイプの継ぎ目から、漏れてくるような、擦れた不協和音。
天井の姉さんは首をあちこちに振り向けていた。踊ってるみたいに。それを急に止めてから、あたしを見た。笑ったのが分かった。次の瞬間、真下に落ちた。
あたしは悲鳴を上げて、後ろに倒れた。潰される、あたしの上に落ちてくる。
けれど、姉さんはそんなことはしなかった。落っこちながらくるりと回る。風に吹かれた木の葉みたい。最後は、あたしの足の先から半メートルほどの位置に着地した。両手両脚をダンパーみたいに使って、着地のショックを吸い取った。音も発てない。
そして、姉さんは……?
……姉さん?
あたし、今、姉さんって言った?
違う。これは姉さんなんかじゃない。こんな怪物のどこに、姉さんらしいところが残ってるって言うの? これは化け物。強いて言うなら、人間サイズの蜘蛛と虎が混じったもの。こんなものが姉さんであるものか。
化け物はあたしに向けて、首を長く伸ばした。頭にはあのウサギの耳が付いたままになってる。針金みたいになった髪の毛が顔を覆い、その奥で、無数の金色の瞳が光っているのが見えた。顔の他の部分はほとんどが口だ。どす黒い澱で汚れた、数え切れないほどの歯がそこから突き出している。澱の正体は乾いた返り血に違いない。顔も、身体も、耳に付いていた染みも、そう血だ。
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