春の祝祭

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 俺が家に着いた頃には、東の空には朝陽が姿を現し、新しい1日のはじまりを世界に知らしめている頃だった。街にも人や車が蠢き出す物音が響く。  古びたアパーメントの階段を上り、手すりに体重を預けながら、部屋のある5階までゆっくりと歩を進める。最近、この階段を上るのにも息が切れるようになり、俺は自分の年齢をひしひしと感じざるを得ない。  ……ようやく5階にたどり着いた俺は、息を弾ませながら、17になる娘のラウラが朝食を作って待っているであろう部屋のドアのノブを、いつものように、捻って開けようとした。  が、その朝は様子が違った。  思わぬことに、ドアが唐突に内側から開いたのだ。そして、なおも意外なことに、ひとりの見知らぬ少年が、俺の部屋から飛び出てきて、俺の横をすり抜けると、すごい勢いで階段を走り降りていった。 「おい!」  俺は物盗りかと思い、身を翻し、その少年の後を追おうとした。が、そんな俺の腕を引っ張る者が居た。振り返ってみれば、ラウラが渾身の力で、腕を掴んで俺を引き留めていた。 「父さん、追わないで、ヘイを……お願い、見逃してやって……」  俺を見つめてそう囁くラウラの唇は、いつになく青白く、そして震えていた。
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