春の祝祭

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 テーブルの上の朝食はすっかり冷めてしまったが、俺は空腹にもかかわらず、それを手につける気にもならず、ラウラの涙ながらの告白に、厳しい面持ちで、腕を組みながら耳を傾けていた。 「……つまり、あの少年……、いや、ヘイは、今、世間を騒がせている“氷の月”の一員というわけだな」  ラウラはこくりと力無く頷いた。  なんてこった。俺の目は思わず天を仰いだ。茶色い染みと埃の跡が目立つ天井が視界に飛び込んでくるが、むろん、そこにこの厄介事の解決策が記されていよう筈がない。……しっかりせねば。  いや、だが、どうすればいいのか。娘のボーイフレンドが、よりによって、いま、街を恐怖に陥れている反政府組織の一員であり、なお悪いことに、警察に追われる身で、さらには、俺が仕事で留守している間、ラウラが家に匿っていたとは。まったくもって、この禍々しい現実の前には、気を確かにしていろと言う方が無理だ。  だが、真の災厄はその翌週、またも唐突に、俺の前に訪れた。 「フェーン上級刑務員……?」 「……申し訳ない。ちょっとうわの空でいた」  いかん、今は職務中だ。  俺は慌てて意識を厄介事から現実に戻し、デスク越しの部下に向き合った。 「これが今春の、革命記念祭のハイライトでされる犯罪人の候補です。いつものことですが、目を通して、宜しいようならサインを頂けますか」  そう言いながらばさり、と部下は分厚いファイルを俺の前に差し出す。しかたなく、俺は、ぼんやりとしていた頭を引き締めて、ぱらぱらと部下に手渡された資料をめくった。  そこには、罪人の顔写真、その経歴、罪状が詳細に綴られている。陰鬱な気持ちを心に沈め、俺はリストを事務的に確認していたが、ある頁で、あっ、と俺は密かに息をのんで、資料をめくる手を止めた。    その頁には、あの朝、すれ違った少年のあどけない顔があった。
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