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第二の男は、この薔薇園にスケッチブックを携えて、カタカタと大きな荷物を牽きながらやって参りました。雨が降って居ることも、お構いなしに。レインコートを着て、傘を差して、折りたたみ椅子に携帯型イーゼル、色鉛筆が詰まった筆箱を上手に肩から下げて、どの花にしようかときょろきょろと、花壇を見渡して居りました。
「うん、この花の具合はボッティチェリには一つまみくらい足りんな。もう少し風雅に、堕落して居て欲しいんだがな、、、、、、、、、」
男は、ブツブツと小言を唱えながら、花を吟味して居りました。そしてちょっとばかり花の茂みを左右に整えたかと思うと、折りたたみ椅子椅子を据えて、すとんと腰を下ろしました。そして、イーゼルを立ててスケッチブックを乗せ、姿勢を正すと、男は徐に胸ポケットから虫眼鏡を取り出しました。男はぐうういっと薔薇に近寄りました。薔薇の表面の神経質で繊細な滴には、美しく透き通るような辺りの薔薇たちが幾つも、逆さまに映り込んで居りました。男は唸りました。
「美しい、、、、、、、、、、この世を超絶した永劫なる宝石を見て居るようだ。しかし、しかし美しいのだが、しかし何かが足りん。んん、何かが」
男は雨などお構いなしに、スケッチブックに、青い色鉛筆の線を走らせました。滴の輪郭を辿り、薔薇の花びらの流麗なエッジをなぞり。男が描いた線は、描いた隙からじわっと緩み、湿気を含んだスケッチブックは、鉛筆の快走を妨げて居りました。男は青い線を追い続けました。「ここに、あと少し何かが在らねばならないのだが、、、、、、、、、ナニカ」
男はスケッチブックを捲ると、さらに細かく入り組んだ線を引き始めました。
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