第一章

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第一章

はい、もしもし。 はい、遠野でございます。 はい。 内藤様、お久し振りでございます。 はい。 慌てて取ったものですから、少し騒がしかったでしょうか? はい、大丈夫です。 今、家に帰って来たところです。 いえ、以前のままです。 私の方は変わりございません。 はい。 もうそんなになりますか? はい。 内藤様は、お変わりございませんか? 左様でございますか… はい。 はあ… ああ、仕事から帰ったばかりで、頭が営業モードになってました。 はい。 様は止します。 ふふっ… あ、それはそうと、息子さんのこと、この度は本当におめでとうございます。 それで、近々、内藤さんから連絡があるのではと期待してました。 はい。 私も個展のオープニングから終わりまで毎日寄せてもらいました。 はい。 いえ、とんでもない。 私としても、我がことのように嬉しくて… 勝手にお手伝いさせてもらいました。 はい、それはそれは盛況でした。 売りに出した絵は完売と聞きました。 はい。 私も一枚でいいので欲しいくらいです。 はい。 そりゃ何と言っても、「黒子(ほくろ)」シリーズです。 はい。 いえいえ、私の稼ぎでは… はい。 いや、それは、お気持ちだけで… はい。 いえいえ、とんでもない、ウチの娘は、逆で、あの艶かしさがいいと言ってます。 はい。 あのシリーズは、できれば美術館のような場所で多くの人に観てもらいたいです。 はい。 素人の私が言うのもなんですが、その価値は充分に… はい。 あ、そうなんですか? 是非、こちらへお出での際は、声を掛けて下さい。 はい。 待ってます。 はい。 楽しみです。 はい。 折り入って… はい。 私でできることなら… 洗車姫をそちらへお連れするんですか? はい。 それなら、お安い御用です。 はい? 洗車姫はそのことをまだ知らない? はい。 それを私から? 伝えるんですか? それも込みですか… それは、ちょっと難題ですね… はい。 私が適任… はい。 確かに、内藤さんに洗車姫を紹介したのは、私です。 はい。 分かりました。 今ここで百%請け合えないですが、何とかやってみます。 はい。 私が最後に洗車姫にお会いしたのは… そう言えば、個展の来場者名簿には名前が無かったです。 佐藤美沙さん。 はい。 私もずっといた訳じゃないので… はい。 「黒子」シリーズのモデルは、全て彼女ですから、画家内藤(かい)を目覚めさせたのは彼女と言っても過言じゃないと思います。 櫂さんも来て欲しかったんだと思います。 はい。 洗車の方は最近とんと噂を聞きません。 廃業? そうかもしれません。 弟さんも立派なお医者さんになりましたし…
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