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「さ...さばとらって何?」
私は頭を抱えてしまった。
どうやら大きな感覚のズレがあると思った。
いやいやそうではない。
私は人で虎ノ助は猫。
同じ次元でないのだから何も悩む事はない。
「ねえ、虎ノ助...さん
私は人間であなたは猫。
人様を騙したり困らせたりするものではありませんよ。
あなたは自分の縄張りへお帰りなさいな。」
「さばとら...殿
...ついに腹を括られましたか!
やはり見込んだだけのお方。
さあ、参りましょう。
我らで新しき世界へ!」
「新しき世界へ...って
虎ノ助!
まだ分からないのかニャ...あれ?
私は帰るんニャ...あれ?
ニャンだかわたし...
おかしくなって来たニャ?」
「さばとら殿はグレーの毛並みに黒い縞模様が何とも美しく また、丸く大きくつり上がった宝石のような目はこの世のものとは思えない輝きを放っている。もう全てがソソられ昔から虜でありました。」
虎之助がそう言い終わると、
私の手はいつの間にか可愛らしいピンクの肉球が付き、耳もピンと伸びた猫耳になっていた。
おまけに細くて長い尻尾が私のお尻から伸びて宙を踊っていた。
「たっ...た・す・け・て。」
私は訳が分からず声にならない呟きを繰り返した。
虎之助は私を凝視していた。
たまに肉球を舐め ついでにダブついたお腹を舐めた。
私は掌の肉球を見つめていると堪らず舐めた。
小さな虫が目の前を横切ろうとするとつい姿勢を低くして手が出てしまう。
風に揺らめく葉っぱさえも無性に気になり飛び掛かりたくなる。
それから虎之助は何も話さず 私も何も聞かなかった。
私達はひと通りグルーミングを終えると虎之助を先頭に音もなく森の中へ分け入って行った。
おしまい
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