穂と瑞

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穂と瑞

(みのり) 私は幼い頃から畑に囲まれたあぜ道を歩くのが好きだった。 小川の流れる水音のリズムに合わせてゆっくりと歩いた。 季節ごとに彩りを添えながら香り立つ土地の穏やかさに幸を感じた。 でも(じゃ)が現れると怖くて全力で走って逃げる。 蛇だけは昔から苦手で彼らの存在理由が分からない。 きっと小さな頃 足を黒い蛇に巻かれた事がトラウマになっている。 地をクネクネと這い、食べ物は丸呑みして味わう事も無く、丸い目はあくまでも丸く意志は計り知れない。 しかも鋭い歯先から毒を放つ者さえいる。 私の理解を超えたこの世の者とは思えない存在なのだ。 それに川面を泳ぐ姿は恐怖さえ感じてしまう。 追いかけられて泣きじゃくりながら夢から覚めた事は数知れない。 きっとDNAレベルで根源的生理的に嫌いなのだと思う。 自然豊かな場所でない所でも何故かしら(じゃ)と出くわす事が多い気がする。 (しるし) (みのり)は知らないだろう。 と言うか、覚えていないのだろう。 ママが誤って赤ん坊の穂と一緒に川へ落ちてしまった事を。 ボクは気が狂った様に泣き叫ぶママを見て不憫に思ったんだ。 その時 水神様は赤ん坊の足を掴んで連れて行こうとして離さなかったけど一度だけお願いした。 生きる為のボクの(しるし)を付ける約束で。 それでも水神様は今でも(みのり)の事を欲しがっている。 だからボクは穂にいつまでも嫌われてここに近づけないようにしている。 でも(みのり)は自然の恵みの子。 どうしてもここを愛し離れようとしない。 草花や木々はそれに応えるように一途に潤い獣達でさえ遠くから見守る。 小さな(みのり)の足首に残した(しるし)は愛と幸と死。 水面を見ながら深く沈んで行かないように。 みんなが悲しみの涙を流さないように。 ボクは(みのり)の側を離れる事はない。 おしまい 「夢綴り」読んで頂きありがとうございました。 また違う形で短編を書きたいと思っていますが、中々どうして短編は難しいなと頭を悩ませております。 今、「川面の少女」をベースとした物語を紡いる所です。 少しずつ公開していきますので読んで頂ければ幸いです。
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