川面の少女

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「じゃあ分かった。 どうなっても知らないからな!」 僕も口調が強くなった。 弟がロープをたぐり寄せると僕は少女の頭の上でロープを止めた。 川面は薄い闇が流れ始めていた。 少女は丸く結ばれたロープの先を暫く見つめながら呼吸を整えていた。 弟は何してんだと言う風に拾った木の枝で大木を軽く叩いた。 僕は平気な顔をしながらもロープを持つ手が震え始めていた。 「もう止めるか!」 僕がそう言おうとした瞬間、少女はロープに飛びつくと宙を舞った。 その瞬間 川面が揺れ光った様に見えた。 少女は遠心力の先端で手を離し伸ばした足先から静かに落ちて川面にキラキラと飛沫を立てた。 僕達はあまりのその美しさに声を失っていた。 ところがいつまでも浮かんで来ない。 ジリジリとした時間を感じた。 僕と弟は顔を見合わせると「おぉい!」と叫びながら土手を降り川に飛び込んだ。 しかし少女を探し出せず、強気の弟は泣き出した。 「タク、すぐにお父さんを呼んで来い!」 僕はそう言うともう一度少女が飛び込んだ所を探した。 両親と弟は川下から探しだした。 僕も涙が溢れて仕方なかった。 結局、村の消防団や警察が出て大騒ぎになって捜索は深夜まで続いたが発見出来なかった。 僕達が見た少女はキャンプ場にいた家族やこの辺りの住人にも心当たりがなく身元不明だった。 僕と弟は怒られたり責められたりはしなかったが、 信じてもらえていない... いや作り話ではないのか... そんな空気を子供ながらに感じた。 そしてその少女がその後どうなったのか知るすべもなく僕達はその出来事を封印した。 それからこの場所には来る事はなかった。
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