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こうして十数年ぶりにここへ訪れたのはあの時の少女の顔を思い出したからだ。
いや、思い出したと言うより夢を見たからだ。
あの時...
ロープを持つ手がきつくて震え出した時、少女のあの微笑みと恐れの入り混じった美しい顔が僕に向かって近づいて来る。
僕は「あっ!」と目覚める。
そんな事を何度か経験してあの場所とあの出来事を思い出した。
久しぶりに訪れたキャンプ場はあの頃よりも整備されていた。
川には小さな橋が架けられ向こう岸にもサイトが作られていた。
あの大木も残されていたがロープを垂らしていた枝は切られていて痛々しかった。
テントを張ってバーベキューをした河原もあの日のままだった。
今にも川面へ向かって飛び込む あの頃の僕達が現れる様に感じた。
辺りを散策しながら「こんなに狭かったかな?」と思いながらふと向こう岸を見ると長い髪の女性が土手の上から川面を見つめていた。
僕は無意識の内にその橋を渡り引き寄せられる様にフラフラと揺れながら近づいた。
すると、
「どう?
上手に飛べたでしょ。
綺麗だったでしょ。
あなたが大人になったらまた見せてあげようと思ったの。
でもあなた次第よ。
今度はあなたも一緒に飛ぶの。
どう...
出来るかしら?
私と一緒に飛べる?」
大木はあの時のまま佇んでいる。
しかし枝から垂れ下がっていたロープはもうなくなっている。
でも僕は彼女の身体を強く引き寄せて躊躇なく思いっきりジャンプした。
彼女は僕にしがみつきあの時の顔で僕を見つめた。
川面に映る僕達はいつの間にかあの頃のままで巡り会い、ようやく僕と少女はお互いを確かめ合う事が出来たような気がした。
ずぶ濡れになった僕達の名前を呼ぶ声がいつまでも川面に響いていた。
おしまい
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