吉田さんは色々な顔でよく笑う。

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「全く油断も隙もない……」  そう言いながら僕は扉を開けた。完全に油断していた。後ろで吉田さんが笑いを堪えていると分かった時には既に遅かった。気付けば僕はコンニャクを頭の上に乗せていた。……クラッカーと違ってびっくりはしないけど、なんだろう。凄く情けない気分になる。堪え切れなくなったのか爆笑しながら、吉田さんが近づいてくる。 「ふふっ。黒板消しのトラップの要領でね、適当にやったんだけどね、ひひっ。こんなに上手く引っかかるなんて……。はー、お腹痛い。最っ高、水城くん」 「もー。こんなの、いつ仕掛けたんだよー」 「ふへへっ。はー、……ごめんごめん。アルバイトの時にトートバックにいれて色々持ってきてね。水城くんに気付かれない様に色んな場所に隠したの。全然分からなかった?」 「気付いてたら、こんな事にはなってないよ!」  僕はこんにゃくを頭の上から降ろしながらぼやいた。全く先が思いやられる。そしてその予感は見事に的中した。  その後も僕は吉田さんに驚かされ続けた。後ろから急にシャボン玉を吹きかけられたり、扉を開けた瞬間に疾走してくるミニラジコンに脛を強打されたり、振り返ると吉田さんが骸骨のマスクを被っていたりして、僕は律儀にその全てに腰を抜かしていた。そして、吉田さんは僕のその様子を見ながら、ツボにでも入ったのかずっとお腹を抱えて苦しそうに笑っていた。 「あのさぁ、ペース早くない? まだ、ワンフロア目だよ?」 「ふー。……色々と持ってきたら余っちゃって。アルバイトの時は最後に四階に来たでしょ?残り物は全部この階に設置したからここは特別数が多いの」 「ちょっと減らしてくれない? 体がもたないよ」 「あー、そうだね。私も笑い過ぎて辛いから、ちょっと減らそうかな。……ほら、そこのガスメーターの上にも袋が置いてあるよ」  吉田さんが指差した場所を調べると、確かに小さなビニール袋が隠されていた。中を見るとプラスチック製のヘビやクモのおもちゃが入っている。溜め息を吐きながらビニール袋を回収し、手に持つ。これまで脅かされる度に没収していたので、既に僕は両手に結構な数の袋を抱えていた。それを見ながら、僕はある事を思い付いた。 「ねぇ、吉田さん一つ提案があるんだけど。前半は僕が先頭で回るから、後半の三階の途中からは交代しない?せっかく吉田さん着替えてきたのに殆ど動画に映ってないし。僕も脅かす側に回ってみたいんだ」 「それはいいけど、準備したの私だしタネ分かっちゃってるよ?」 「それは問題ないよ。前半で使われた物も再利用して使うから。タイミングと何がくるか分からなければ案外怖いんじゃないかな」 「む。でも、いいの? 水城くんと私の差が浮き彫りになっちゃうかもしれないよ?」 「その時は素直に負けを認めるよ。それとも吉田さん、実は怖いの?」 「……いい度胸ね。分かった、途中から交代ね。私と水城くんの格の違いを見せてあげる」  そこからは結構楽しかった。これから吉田さんに多少の仕返しが出来ると考えるとワクワクしたし、それまではただ驚いていただけだったのが後半脅かす側に回ると思うと、何処に設置したら怖いかだとか、どのタイミングで使えば効果的なんだろうとか色々考えながら歩く必要があって、いつの間にか恐怖は霧散していた。  そして後半になると、あれだけ余裕があった吉田さんが嘘みたいに何回も可愛い悲鳴をあげるので、僕は思わず笑ってしまった。でも、楽しい時間はそんなに長く続かなかった。
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