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「そういうのは計画立ててる時が一番楽しいんだと思うよ」
「……そうかもしれないけど。昨日作文を書いてみて漠然と思ったの。今やらないと意味が無いんだろうなって」
「そんなに行きたいの?」
「行きたいよー」
断ったら、その内一人で行くかもしれないなと僕は思った。
「2つ約束してくれるなら、付き合ってもいいよ」
「何⁉」
吉田さんは目を輝かせながら勢いよく振り返る。
「1つ、法と道徳を犯す様な事はしない。2つ、治安が悪い場所には近づかない」
「……それ、ただの散歩じゃない?」
「呼び方の問題じゃないかな。たぶん、そうだよ。吉田さん何か格好良い呼び方考えて」
「えー。私、ネーミングセンス無いんだけど」
「じゃあ、明日までに考えてきてよ。ほら、もう駅着いちゃったし」
「早いなぁ。水城くん、どっち方面だっけ?」
「1番線、吉田さんは2番線でしょ」
「じゃあ、ここまでかー。水城くんも明日までに考えてきてよ」
「おっけい。考えとくよ。じゃあねバイバイ」
「バイバイ。また明日ね」
そう言ってその日、僕たちは別れた。
次の日、いつも通り朝早く教室に行くと、もう吉田さんが席に座っていた。他にはまだ誰も居ない。
「おはよう、吉田さん。今日は随分早いね」
「おはよー、水城くん。周りに誰も居ない時の方が色々と話しやすいと思って」
そこで僕は例の名称を考えていなかった事に気付いた。
「あー、そうだね。吉田さんは何か良い案思い付いた?」
「ちょっと恥ずかしいんだけど。……サーチ&デストロイとかは?」
「……デストロイしちゃ駄目でしょ」
「む。じゃあ、水城くんの案は何なのよ」
「……散歩」
「水城くん、君忘れてたでしょ」
吉田さんが声色を変えて睨み付けてくる。
「ソンナコトナイヨ」
僕は目を逸らした。
「ビンタとデコピンどっちがいいかなぁ」
彼女はシャドーボクシングをしながら何やら不穏な事を呟いた。それはパンチだよ、吉田さん。
「いやいや、よく考えてみてよ。下手に日常会話で馴染みの無い言葉使うと不審に思われるでしょ。隠語。隠語として散歩って呼ぶのはどう?」
僕は苦し紛れにでまかせを言った。
「隠語かぁ。……安直だけど悪くないかも」
「やった」
「じゃあ、さっそくだけど水城くん。今日の放課後暇なら散歩しない?」
「暇だけど。え、今日からするの?」
「もちろん。言ったでしょ。もう既に行きたい場所はピックアップ済みだって」
そう言うと、吉田さんはいたずらっぽく笑って見せた。
それから、僕は吉田さんと二人で定期的に散歩するようになった。初めの内、僕は数回で吉田さんが飽きるだろうと思っていた。でも、それは甘い考えだったみたいだ。高校生となった今でも散歩は続いている。結果論で言ってしまえば、それだけ行動を共にすれば、いつか何かが起こるのは自明の理だった。そして僕たちは巻き込まれた。
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