吉田さんは結構いじわる。

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 当日、僕は駅前で吉田さんと合流し、彼女のお爺さんの家に向かった。快速列車に揺られながら僕たちは彼女が持参したトランプやオセロでひたすら遊んで過ごしていた。当たり前だけど吉田さんは見慣れた制服姿ではなく、麦藁のスラウチ・ハットにギンガムチェックのワンピース、白のストラップサンダルといった夏仕様の出で立ちで、向かい合って座っていると妙にドキドキする。  市内から離れるにつれて車窓から見える景色はコンクリートジャングルから田園風景へと様変わりし、入ってくる風にも土の匂いが混ざり始め、都会の喧騒を忘れさせるには十分な環境だったと思う。でも、正直景色の事なんか全く頭に入らなかった。  目的地に着く頃には時刻はもう正午を過ぎていて、僕は吉田さんのお爺さんに挨拶も早々に昼食をご馳走になった。お爺さんは吉田さんと僕の関係について興味津々みたいで、仲良くなったきっかけだとかを根ほり葉ほり聞いてきた。食事をご馳走になっているし、今晩泊めていただくわけで無碍には出来ないのだが、助けを求めようにも吉田さんは食事を終えると「準備する事があるから」と僕を残して何処かに消えてしまうし、中々に辛い時間だった。  お爺さんの質問攻めが終わり、食後の熱いお茶を飲んでいるとパタパタという軽い足音が後ろから聞こえてきた。吉田さんが戻ってきたんだろう。 「水城くん、もう食べ終わった?」 「何処行ってたん……」  軽く愚痴を言おうと振り返ると、吉田さんの服装が変わっていた。スポーティーな黒いシャツに少し大きめの作業服。手にはトートバックを持っている。また、いつもの雰囲気と違う。 「……着替えたんだ」  気付けば、僕は何を言おうとしていたのか忘れてしまった。 「これから廃ビルに行くでしょ? 汚れるかなと思って。水城くんも着替える?」 「いや、僕はTシャツとジーパンだし、このまま行くよ。他に何か準備する事ってある?」 「必要な物はもう準備したの」  そう言うと、吉田さんは持っていたトートバッグの中を少し広げて見せてくれた。謎の銀色の箱に、ペンの付いたバインダーやペットボトルのお茶、ビニール袋などが確認出来る。 「これは何?」  僕は銀色の箱を指差した。 「鍵よ。全部の部屋のマスターキーが入ってるの」 「へぇ。こういう感じで保管されてるんだ」 「そう。この鍵を使って、各部屋に入って部屋に残った家具の数を数える。で、このバインダーに挟んだ紙に各個数を記入するの。あと、部屋には土足で入っていいから。……これくらいかな。大丈夫? 何か質問ある?」 「ビルまでは歩いていく感じ?」 「うん。ホントにすぐそこよ。歩いて1分もかからないの」 「近っ」 「他には?」 「おっけい。大丈夫」 「じゃあ、行こっか。早く終わらせて、夜までトランプでもしようよ」 「いいね」  
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