初対面の時

2/3
250人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
「それは知ってますー。でも自分の身に起きたらさぁ…」 喉元を過ぎるライムの爽やかさが逆に切ない。 「しかも自分が浮気相手。ドラマの世界の話だけかと思ってたけど、あるんだね。実際」 「…」 「黙んないでよ。これでもショック受けてるんだから。悔しいから泣かないけどね」 「雛子って昔からそうだよな」 「可愛いのは名前だけって言うんでしょ?分かってるよ。意地っ張りなことくらい」 稜ちゃんはフッと笑って 「慰めてやろうか?」 といたずらな視線を向けてくる。 「浮気常習犯にする話じゃなかったね。困ったわ」 「一人寝は寂しいっしょ?」 「んー…否定はしないけど、遠慮しとく。稜ちゃんの彼女に睨まれちゃったら怖いし」 「バレなかったらいいってこと?」 「違うってば。もう一杯ちょうだい、同じのね」 「はいはい」 二杯目に口をつけ始めた頃、ドアが開く音がした。 つられて何となくそちらの方を向く。 「いらっしゃいませ」 眼鏡をしてて、スーツ姿だけどネクタイはしていない、着崩した格好。 眼鏡をかけた人にありがちな、いわゆる“堅さ”は感じられない。 紺色の太めのフレームでこじゃれた感があるせいだろうか。 「モスコミュールを」 男性は一番左の席に座った。ちなみに私は一番右。 空間は二席分しか空いてない。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!