250人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
「それは知ってますー。でも自分の身に起きたらさぁ…」
喉元を過ぎるライムの爽やかさが逆に切ない。
「しかも自分が浮気相手。ドラマの世界の話だけかと思ってたけど、あるんだね。実際」
「…」
「黙んないでよ。これでもショック受けてるんだから。悔しいから泣かないけどね」
「雛子って昔からそうだよな」
「可愛いのは名前だけって言うんでしょ?分かってるよ。意地っ張りなことくらい」
稜ちゃんはフッと笑って
「慰めてやろうか?」
といたずらな視線を向けてくる。
「浮気常習犯にする話じゃなかったね。困ったわ」
「一人寝は寂しいっしょ?」
「んー…否定はしないけど、遠慮しとく。稜ちゃんの彼女に睨まれちゃったら怖いし」
「バレなかったらいいってこと?」
「違うってば。もう一杯ちょうだい、同じのね」
「はいはい」
二杯目に口をつけ始めた頃、ドアが開く音がした。
つられて何となくそちらの方を向く。
「いらっしゃいませ」
眼鏡をしてて、スーツ姿だけどネクタイはしていない、着崩した格好。
眼鏡をかけた人にありがちな、いわゆる“堅さ”は感じられない。
紺色の太めのフレームでこじゃれた感があるせいだろうか。
「モスコミュールを」
男性は一番左の席に座った。ちなみに私は一番右。
空間は二席分しか空いてない。
最初のコメントを投稿しよう!