狭められる時間

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狭められる時間

お昼休憩中、携帯マグのほうじ茶を紙コップに注いでいる時のことだ。 「雛子ちゃんさ、誕生日いつ?」 「何ですか、突然」 「単なる情報収集。プレゼントのリクエストがあればついでに言っていいよ」 「…かなり先です」 私の誕生日の頃には矢野課長はもうこの会社にはいないじゃない。 答えたところで、どうにもならない。 そう言えば、誕生日に恋人がいたことないな。なんて自嘲的になる。 口元に笑みを浮かべながら、ほうじ茶を矢野課長の前に置いた。 「そうそう、昨日はありがとうございました。送っていただいて」 「そっかー…教えてくれないか。残念」 「話そらしたのバレました?」 「わざとでしょ」 「ふふ。気が向いたら教えます。稜ちゃんに聞けばすぐ答えが出ると思いますけど」 「本人の口から聞かなきゃ意味ないだろ。こういうことは」 あ、ちょっと拗ねちゃった。こんな表情するんだ、矢野課長。 「じゃあ、これはちゃんと答えてね」 「?はい」 「お弁当を誰かに作ってあげたことはある?」 「異性に、ってことですよね。矢野課長が初めてです」 「本当に?」 「嘘ついてどうしろって言うんですか」 「…へぇ、そっか。うん」 緩んだ口元を手で覆って、目尻を下げて。そんなに嬉しいものなのだろうか。 そもそも、“俺の分も作ってきて”って言ったのは矢野課長だ。 ―こんなことを思ってしまうから、可愛くないんだろうな。 「何か、食べたいおかずとかありますか?」 「え?」 「好き嫌い聞いてなかったし、私の独断でおかずを詰めてるだけですから。もし苦手なのが入ってるのに無理して食べてるなら、申し訳ないって言うか…あの…」 最後の方は尻すぼみになってしまった。
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