鬼の目にも涙

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もう一度ゆっくり、ゆっくりと深呼吸し改めて課長に向き合う 「課長……課長の言った通り、今までは恋愛対象は女性でした。 だからこの芽生えた気持ちは違うとも思ってたんです。でも課長を目の前にすると、色々と考えていた事も消えて理性よりも気持ちが先行して… 俺の方こそ酔っているのをいい事に手を出して…すみませんでした」 そう、最初は何度も 男を? 俺が課長を? 好き? と、そんなよぎった想いを頭から振り払おうとした なのに知れば知るほど、歯止めが掛からなくなっていて… 「俺は、課長だから色々したいんです。美味しい物食べさせたいし、気持ち良くさせたい… これが恋愛感情じゃなければ、何なんでしょう…課長」 「お、おい…」 床に座っている課長ににじり寄る 俺が近づいた事で普段と違い下ろしている前髪の奥の目が泳いだ 「課長とこれからもずっと一緒にご飯食べて笑い合いたい…そう思ってはダメ、ですか?」 「さ、佐和ッ」 「俺が課長を好きでいるのはダメですか?」 「ッ、それは…お前にはもっと可愛い女が…」 「課長……」 ゴツい課長の手を取ると 触れた瞬間、ビクッと反応したが俺の手を跳ね除ける事はしないで握らせてくれる 心臓が今までにないぐらい速く打ちつけて 上手く呼吸も出来ない ゆっくりと視線を課長の手から顔にへと上げて行き 戸惑う目を見つめる 「好きです、陣さん…」 「ーーーッ」 情けないほど手も声も震えて、その言葉を紡ぐだけで精一杯だった
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