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――そのアジア人の女はきれいなコイネー〔かつてアレクサンドロス大王が征服した地域で共通言語として使われたギリシア語〕を話せたので、まだ若いながらも見識のある学生の可能性があったため、ここ図書館本館に招いて何人かの学者が彼女にインタビューしています。アショーカ王が入滅して以来インドのマウリヤ朝が分裂状態になっており、かの国の情報を持っているアジア人学生であれば宮廷にとっても貴重な情報となりますから。しかし残念ながら「孔雀王朝」という名前でマウリヤ朝のことは知っていたものの、まったく別の国から来たそうでした。言語学者や地理学者、歴史学者、動物学者などが入れ替わり立ち替わり彼女と話したがり……エキゾチックな美貌の若い女性ということもあるでしょうが……年の割にどうしてなかなか、地理以外にも医学や天文学でも相当な知識を持っているようでした。専門用語がお互い分からず、話はあまりかみ合いませんでしたが。彼女は館内の食堂にも案内しています。
「そんなことはどうでもいい……学問好きな異国の者が、図書館本館に滞在していた。……ということは?」
――この図書館の貴重な本に興味を示したかも、しれません。……我々が目を離した時も、あったかも……しれません。
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