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「あるいは、そのように記録されるかもしれんな。その女はいまどこに?」
――彼女は本人の希望もあり、またアジア部門の発展に寄与する可能性大なので、東方の地誌に関する書物を執筆して王に献上することを条件に、半年間限定の特別聴講生の制度を利用することにいたしました。アジア部門長のクマグスからの推薦状がまもなく館長のところに届くはずです。したがってしばらくここアレクサンドリアにいるはずであり、もう旅の荷ほどきも済み、おそらくは海外からの移住者や旅行者の集まるコム=エル=ディッカ地区の宿にいる可能性が高いと思われます。出身は聞いたことのない国名でしたので……。
赤毛の男は短く息を吸ってから付け加えた。
――もし何かしら処罰の対象になったとして、とくにどこかの国との軋轢にはならないかと……。
「あとは任せる。では明日の昼までに報告書を届けるように。わたしに直接、だ」
老人の顔がふたたび暗がりに消えた。替わって片手が現れ、早くいけ、というように振られる。
赤毛の男は二階の回廊に出たところでパピルスの巻物を抱えた学者とぶつかって怒鳴られたが、無視して階段を駆け下りた。
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