1 奴隷少年ジャンダリ

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1 奴隷少年ジャンダリ

 その奴隷(どれい)の少年は壁にかかった鏡に(うつ)る自分と主人を見ながら、ギリシア神話の英雄ペルセウスのことを思い浮かべていた。  少年は()せた体格に褐色(かっしょく)の肌をしている。ため息をつくと、長い前髪の隙間(すきま)から片目がのぞく。顔は年齢の割に子供っぽく、ここエジプトにあっては中性的な風貌(ふうぼう)だ。  少年の名前はジャンダリ。歳は一七歳。  数年前の戦争の結果、セレウコス朝シリアからこのプトレマイオス朝エジプトの王都アレクサンドリアに奴隷として連れてこられた。いまの主人は背後にいる。 「ああ、ジャンダリ! おまえの太腿(ふともも)!」  主人の大げさなセリフを無視して、ジャンダリはペルセウスとメドューサの戦いの物語のことを考える。  怪物メドューサに直接見られると石になってしまう。そこでペルセウスは戦いと知恵の女神アテーナーからさずかった青銅(せいどう)(たて)にメドューサを映しながら近づき、メドューサの頭を切り落とした。 「子供だった頃の柔らかい太腿もよかったが、地中海〔エジプト海〕の波の上で鍛えられた足腰、赤銅(しゃくどう)のように引き締まったこの太腿も!」
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