1 奴隷少年ジャンダリ

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「あ、ありがとうございます……」書物を買ってくれる、と言われてジャンダリは反射的に主人にお礼を言った。 「といってもおまえの所有物ではなく、書架(しょか)に置いておくだけだが……。でもまあ、事実上おまえのものだ。『ジャンダリの書物』、ずいぶん増えたな。ははは……。もう五、六年経つか……おまえがうちに来てから」  数年前、ラフィアの戦いで行われたライバル国家同士、プトレマイオス朝とセレウコス朝との戦争で、ジャンダリはまだ子供だったが捕虜(ほりょ)になりエジプトに連れてこられた。戦争での捕虜は戦勝国の政府や市民に奴隷として使われるか、輸出品として売られる。当時ジャンダリはまだ精通もしていない子供だったので、いまのギリシア人の主人に家庭内用の召使(めしつかい)として安く買われた。いまでは体力もついたので漁に出たり大工仕事をやって主人のために金を稼いでいる。時々夜の「お(つと)め」もこなす。  ……しかし、主人は急にセンチメンタルになって、何を言い出すんだ?
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