1 奴隷少年ジャンダリ

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「昨日はジャンダリが(りょう)(かせ)いでくれたおかげでな、今日の軍資金はたっぷりだ。まったく数年前に買ったときにはひょろひょろで()せた子供だったもんだが、いまやうちの立派な稼ぎ手だな! ジャンダリは。今日はお祭りでロドス島のワインでもアンフォラ〔ワインや穀物の輸送によく使われた大甕(おおがめ)〕いっぱい買おうかと思っているが、ジャンダリにも好きな書物を買ってやろうかなと思っててな。奴隷のくせに文字が読めるなんて、たいした勉強家だよ。なあジャンダリ?」  中庭には誰もいなかった。  主人は妻を迎えるように両手で広げたままで、ぐるっと見まわした。貯蔵庫やジャンダリともう一人の奴隷用の作業部屋兼寝室、台所――。 「……なあ、ジャンダリ?」  主人が自分の部屋を振りむくと、ジャンダリの姿はもうなかった。
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