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「それで、メロンクリームソーダくん。盗んだものを返してくれるかい」
葉はニコニコしながら河童に手を差し出す。
「……ごめんだっぺ」とメロンクリームソーダは大事に抱えていた小さな袋を葉に手渡す。
「これはね、人が神様に願いを込めてお供えしていったものなんだ。だから食べちゃダメだよ」
「どうしたの?」と彩が尋ねると、メロンクリームソーダはモジモジしながら「おいら、クッキーが好きだっぺ」と答える。
「だからって盗んじゃだめだよ」と葉が言うと、メロンクリームソーダは下を向きしょんぼりとする。それをみた彩は「クッキー? それなら私が作ってあげるよ」と言う。
「作ってくれるっぺ? 嬉しいっぺ」とメロンクリームソーダは彩の手を握りブンブンと振る。
メロンクリームソーダくんの手は柔らかくて少しプニプニして、ちょっとヒンヤリしている。肌触りはザラザラしていたりツルツルしていたりとはじめましての感じ。妖怪と会話して、作ったことのないクッキーを作ってあげる約束までするなんて……。
キーンコーンカーンコーン。
「あ、やばい。これじゃあ遅刻だ……。金平糖、出番だ!」
「葉、俺をタクシー代わりにすんなよ」
文句を言いながらも金平糖は大きな狐の姿となり、背を低くする。
「ちょっ、ちょっと。オレはどうすればいいし?」と絵。
「タルトよろしく!」と葉はタルトにサムズアップをする。
「わかったじゃん! 絵はキックスケーターでいくじゃん」
タルトはキックスケーターに化ける。
「タルト……オレも空から行きたかったし」
「今は子どもらしく行くじゃん」
「なんだよ。子どもらしくとか。そういうの嫌いだし」
「まあまあ、はやく行くじゃん」
絵はしぶしぶキックスケーターに乗って小学校へ向かう。
「さあ、彩! いくよ!」
葉は彩の手を掴み、金平糖の背にのせる。
「え? なに?」
「金平糖、安全運転でお願いしますよ」
「あいよ」
金平糖は空高く上がり、学校へと一直線で進んでいく。
「これ、誰かにみられたら……」
「大丈夫。金平糖たちに触れている時は、僕らは普通の人には見えないよ」と葉はウインクをする。
金平糖は空高く上がっていき、猛スピードで飛んでいく。
空から見た町は思ったより小さく見える。けど歩いたら時間がかかる大きさなんだろう。地上で感じる匂いや風の感覚も違っている。鳥が飛ぶ世界ってこんな感じなのかな。空の旅はあっという間に終わってしまったがとてもステキな時間だった。
この時はじめて、普通の人たちには見えない世界がちょっとだけステキだと思った。妖モノに触れるのも喋るのも悪くないなって思った。
見えざるものがいる世界にいるのが私一人ではないこと……それが本当に嬉しく思った。
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