113人が本棚に入れています
本棚に追加
第三話 妖怪変化
「ぎゃあああああ」
妖モノはガラスが粉々に割れたかのような破片となって消滅していく。
“久しぶりだね。会いたかった……”とどこからか声が聞こえてくる。この声は彩にだけに聞こえている。
え? 誰?
「君、大丈夫? 怪我はない?」
銀髪で赤目、動物のような耳と尻尾をつけ、着物に織物を羽織った青年と、まん丸の犬、紫髪で目隠しをした妖艶な女性が立っていた。
「危ないところでしたね」と紫髪の女性が優しく微笑む。
「そんな襲ってくださいと言わんばかりの力を駄々洩れにしていれば襲われて当然だろう」
犬は二本足で立ち腕を組み、彩を蔑み笑う。
え? 犬が喋った???
紫髪の女性が彩の額に手をかざし何かを確認する。問題はなかったようで銀髪の青年に微笑み頷く。
「うん、大丈夫そうだね」と銀髪の青年はニコッと微笑む。
きっと、今の様子だと私に怪我とかないかを調べてくれたのかな?
「そりゃあ、葉のおかげでなんともないでしょうよ」
また別の人の声が聞こえるが、どこからか声がするが姿は見えない。
「そうだね、金平糖のおかげだね。ありがとう」
金平糖? 甘くて美味しそうな? って他に誰かいるのかな?
彩はキョロキョロと金平糖の姿を探す。
「あと、君が目を離さないでいてくれたから奴の動きを少し遅くすることができたんだ。ありがとう」
葉は首を傾け、優しい笑顔を見せる。
「こちらこそ、助けていただき、ありがとうございました」
彩は深々とお辞儀をする。
「そうですね……お嬢さん。その力を隠した方がいいかもしれません。特にここら辺では……」と紫髪の女性はキョロキョロと辺りを見回しながら意味ありげな含みを込めて、遠回しに忠告をする。
「力を隠す?」
ああ、妖モノがみえたりする能力のことか。
「リン、君がやり方を教えてあげたらいいんじゃない」
葉はリンの顔色を窺うかのように話しかける。
「私が? なんのご冗談を? 人間如きに教えることはありませんわ」
リンは失笑し、不機嫌そうに背中を向ける。
「僕には教えてくれるのに?」
「葉は特別な人間ですし、私の愛しの子ですもの」
リンはクルっと振り返り、ニコニコしながら葉に近づき腕にギュッと抱き着く。
「でも、彼女がもし妖モノに喰われでもしたら君たちも危ないと思うよ」
「そうだな。それは確かにな」
また犬が喋った? 私は夢を見ているの?
「では、ワンタンが手取り足取り教えてあげたらよろしいのでは?」
リンは手を合わせ、ニヤリと口角を上げる。
「俺は犬だぞ。無理に決まっておる。お前が教えるのがベストだ」
ワンタンは尻尾を大きく振る。
「僕もそう思う。お願いだよ、リン」
葉は片目を瞑り、上目遣いで頼み込む。
「そうですね。葉のお願いじゃ仕方ありませんね。お嬢さん、私が色々とご教授しますわ。落ち着いたらここにいらっしゃって」
リンは住所と地図が書かれた名刺のようなものを投げる。
「ありがとうございます」と彩は深々と頭を下げる。
正直、この人たちが何の話をしているかわからないし、力とか意味が分からない。けど、私が見えるということに関係しているってことだよね……。
ガタンと電車が揺れ、徐行をはじめる。そして間もなくして駅に停車する。
「じゃあ、またね」と葉は会釈をし、葉一行様はドアが開くと何事もなかったように降りていく。
「はい、また……」と彩は手を呆然と振る。
最初のコメントを投稿しよう!