113人が本棚に入れています
本棚に追加
第四話 家族団欒
って! 私もここで降りるんだった。
彩は閉まりかけのドアを走って通り抜ける。ホームを見渡しても葉ご一行様の姿はない。
消えた? 足が速いとか?
葉さん? は人間っていっていたような気がするけど……どこへいったの?
それに耳や尻尾があったよね……本当に人間なの?
落ち着いたら紙に書かれた場所へ行ってみよう。
さっきまでの豪雨が嘘のように晴れ渡った空。
空を見上げると、台風の目のようにぽっかりと穴が開いてこの空間だけ晴れている。
空から金色の一枚の羽根がフワリと落ちてくる。
なんとなくキレイだなと思いながらそっと手に取りカバンの中にしまう。
とりあえず、祖父母の家に……。
足元に真冬のような冷気がスーッと通り抜ける。
気が付くとホームには一人きり。昼間なのに寒気がする。なんだろう、この雰囲気。少し苦手かも。
彩は大きく深呼吸をし、息を吐く。
生暖かい花の香りが混ざった風がフワッと通り過ぎたかと思うと、小さな竜巻になって空高くあがっていく。
駅を出ると一台の車が止まっているのがみえる。
私以外誰もいないのに、誰を待っているんだろう。
「彩ちゃん?」
え? 私の名前?
車から老夫婦が下りてくる。ああ、この人たちが母方の祖父母さんなのか。
「はい、彩です。えっと……」
「はじめましてじゃないんだけど、はじめましてよね。私は彩ちゃんの祖母の春恵です。おかえりなさい、彩ちゃん」
「私は祖父の正雄だ。彩、おかえり」
ふにゃふにゃ笑顔の祖父母。
祖父母の優しい笑顔を見た彩の目から涙が溢れだす。
「あらあら、一人で電車なんて緊張したさね」
春恵は彩の背中をさすり、そっと抱き寄せる。
ああ、そっか。
私が欲しかったものは……これなんだ。
ただ笑顔で「おかえり」って言ってほしかった……その言葉がほしかった。
帰る場所があること。
誰かが笑顔で迎え入れてくれること。
私はここにいていいんだよね。
車に乗り家に着くと、家の中の明かりがついていた。
玄関先で首輪をつけた猫が座っており、玄関へ近づくと足にスリスリしてくる。
「あら、大福ちゃん。ただいま。彩ちゃんにおかえりっていっているのね」
「こんばんは。はじめまして、大福さん」
彩が大福の頭を撫でると大福はゴロゴロと喉を鳴らす。
そして彩たちと一緒に大福も家の中へ入っていく。
今までは真っ暗な家に独りぼっちだった……。
なんだか心がポカポカになってきた。
今日からここが私の家なんだ。
最初のコメントを投稿しよう!