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きらきらと見えるそれが何を意味するのか、それは大人になった今でも理解はできなかった。ただ綺麗だなあと単純に思っていただけで、なにも特別なこともなかった。それ以上でもそれ以下でもない存在であった。だから僕には未だにその涙の意味も理解できないし、僕の前に未だに姿を見せない理由も想像できなかった。
あなたに出会ったのは小学生にもなる前で、なんとなく公園で遊んでいた日であったと記憶している。その日は新月だったんだろう、外灯に負けない星空を記憶している。いつものように機嫌の悪いお母さんの意思のままに外に出て過ごす。今となってはよく通報されなかったものだと思うし、まあその当時のご近所さんなんてそんなものであったのだ。
といってもご近所さんとの関係や感覚は、今も昔も変わらない気がする。
それはともかく、そんな夜に出会ったのがあなただった。あなたは新月にも勝っているような暗さの中でそろそろと動いた。背格好は当時の自分と同じくらいだったと記憶している。
いつもはひとりでお母さんの機嫌が直るまで遊んだブランコ、いつもはふたつのうちひとつは空っぽで静かだったけど今日はギイギイと勢いもなく揺れている。
表情も見えないあなたが、僕には悲しそうに見えた。思わずあなたの手をとり砂場に導いた。
勝手につくり始めた山に、トンネルを一緒につくろうって言ったのかもしれない。
お互いに反対側からしんと冷える夜の砂山を掘っていた。さくさくと掘っていって、すっと指先が触れた。トンネルが開通した瞬間だ。
あとは慎重に穴を大きくしていったのだけれど、どうにもそれは歪だったようで、無惨にも崩れてしまった。
あなたはどんな表情もせずに崩れたトンネルを、もう一度掘り直していた。だから僕もそれにならって反対側からトンネルを掘り直したのだ。
それを何度か繰り返して、それでもトンネルは完成しない。
僕は正直飽きてきたのだけれど、あなたがあまりにも一生懸命にトンネルを掘るから、子どもながらに止められない気持ちにはなった。
何度目かに触れた指先、あとは慎重に穴を広げていく。
ようやく完成した砂山トンネルは覗き込めばその先がはっきりと見えるほどであった。それほどに立派な穴を開けたのだ。あなたも反対側から覗き込んでいるはずなのに、どんな顔でどんな表情であったかは思い出せない。思い出せないというより、存在していたのだろうかと、それでも何の違和感もなくあの日公園で過ごしたのだ。
ふと、キラキラと輝くものが手のひらにあると気がついた。いつの間に手にしたのかわからない。ただあなたがそれをじいっと見ていたのがわかったから、トンネル越しに渡した。
「あ、りが……とう」
そう聞こえた気がした。気がしたところで、公園には自分しか居ないことに気がついた。
その日はもういいかなと、そろそろと家に帰った。
翌日、砂場には誰かに崩された砂山の跡があった。
昨晩確かに、トンネルを掘ったのだと。自分の胸にそっと閉まったのだ。
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