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「じゃぁ、これはおれのほうで処分しておくね」
先輩の他支店への異動が決まった数日後。私は以前と同じカフェで、相変わらず見た目のチャラい男に会っていた。
用事を済ませて「それじゃ」とすぐに立ち去ろうとする男を、今回は私が引き止める。
「その箒なんだけど、今日いくつかもらって帰ることはできる?」
一週間使ってクタクタになった箒を着払いで返さずに、わざわざ出向いてきたのは、このためだった。
「具体的にいくつ?」
席を立とうとしていた男が、ゆっくりと腰を落とす。
「今払えるのは、三万円」
声を顰めた私をジッと見つめたあと、男が緩やかに口角を引き上げた。
「三セットね。大丈夫だよ、おねーさん」
男が持っていた紙袋の中から、箒と青ペンを三本ずつ取り出す。
それと引き換えにお金を入れた封筒を差し出すと、男は中身を確認して「確かに」と、ニンマリとした。
「このあと誰との関係を切り捨てるかは、おねーさんの自由。だけど、使う前によく考えてね。嫌なものを捨てるのは簡単だけど、なくしたものを一から築き直すのは難しいから」
綺麗な笑顔で釘を刺すようなことを言う男を、私は無言で見送った。
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