花の名前と、きみの匂い。

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あれから、もう一年の時が過ぎる。 恋人でもない、友人でもない、もちろん主従関係なんかでもない僕たちの関係性は変わることなく続いていた。 一緒に暮らしていくうちに色々なことがあって、改善するところもたくさんあって、それを少しずつ擦り合わせていって。 桂人に他に大切なものが出来たら、すぐにでも終わってしまう関係だとある程度の覚悟は常にしているつもりでいたが、それでも一緒に起きてご飯を食べて、それぞれの仕事をして、帰ってまた食べて寝る。 そんな日常を彼と過ごしていくうちに、あっという間に時間は過ぎていった。 桂人はΩのための就労支援講習に通い、町の花屋さんでパートを始めた。 もうフェロモンを伴うヒートは起こさないが、Ωであることに加え、言葉も話せない彼を理解して見守ってくれる、よい職場だと聞いた。 花屋さんは意外に力仕事も多いらしい。基本的に接客はせずに裏方の仕事をしているという桂人だが、フラワーアレンジメントなんかも少しずつ覚え始めているそうだ。 それでもいかんせんあの麗しい容姿だから、桂人目当てに花を買いにくるお客さんも徐々に増えてきていて、桂人が話せないことを知っている常連さんなんかは桂人が話せないことを承知で彼から花を買ってくれることもあるらしい。 大変なこともきっとあるだろうけど、それでもメールやメモで仕事のことを話してくれる桂人の表情はいつも楽しそうだった。
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