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「ありがとうございました。」
「お大事に。」
本日最後の患者さんが診察室を出ていく。
その後ろ姿を見送る。
扉が閉まる音を聞きながら処方箋の入力を終え、確定ボタンをクリックする。
見慣れたパソコンの画面を見ながら今日も1日が終わっていく安堵感に、小さく息を吐いた。
とある総合病院にあるここ第二性科―…通称オメガ外来は、主にΩ性を持つ人々を診察し、ヒート抑制剤の調整や処方を行っている。
避妊薬や、α性を持つ人のラット抑制剤なんかも処方したりするけど、その名の通りやはり主となって関わっていくのはΩ性を持つ人たちだ。
「梗太朗(こうたろう)先生、お疲れ様でした。」
「お疲れ様です。」
片付けを始める看護師さんから笑顔でかかる声に、電子カルテを打ち込む手を止めて挨拶を返す。
目の前の画面には本日診察した人たちの名がずらりと並んでいた。
僕―井高 梗太朗(いだか こうたろう)がオメガ外来の医師になってかれこれ12年。
10年以上の付き合いになる患者さんもいれば、性別検査でΩと診断され、親に付き添われながら不安気な顔で初めて診察を受けにきた若い患者さんもいる。
疾患に罹っているわけではないから、患者さんと呼ぶことには違和感があるのだが―。
そんなことを話せば、同僚の外科医には「お前はほんとに繊細だよな」なんて笑い飛ばされた。
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