花の名前と、きみの匂い。

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食卓に並んでいたのは、焼き魚、ほうれん草の柚子味噌和え、大根と厚揚げのお味噌汁、野菜サラダに牛蒡が入った炊き込みご飯、それから僕が好きなだし巻き玉子だった。 「うわ、美味しそう。今日も豪華だね。」 その食卓の彩りに感嘆の声を漏らすと、桂人は少しだけ嬉しそうに表情を緩めた。 「疲れてない?桂人も仕事頑張ってるんだから、手のこんだ料理ばかりじゃなくて、手を抜いてくれたって全然構わないんだよ。」 彼の料理の腕は抜群で、尚且つ僕の料理スキルでは想像もつかないほど、その作業工程は丁寧なものだ。 味噌汁や煮物なんかの出汁は鰹節やら昆布やらから取ってるし、朝仕事に行く前から夕飯の材料の下ごしらえなんかをしている。 彼だって暇じゃないことは知っているし、こんなに丁寧にご飯を作ってもらうことを僕が強要しているわけでもないから、手を抜いてくれたって一向に構わないのに…。 仕事的に僕が終わる時間の方が、彼が終わる時間より遅いというだけで。 まぁ、彼が作る料理は確かに絶品でどれもこれも幸せになるほど美味しいから、無くなってしまったらそれはそれで淋しいけれど…。 そんな気持ちで、無理はしなくてもいい、といつも伝えるのだが、そう言うと彼は明らかに悲しげな表情になる。 今日も手を抜いてくれたっていいよ、と伝えると、彼は項垂れる尻尾や耳が見えそうなくらい(もちろんそんなものはないのだが)、しゅんと肩を落としてしまった。 「ごめん、違うよ。桂人が無理していないか心配なだけだよ。僕は帰ってきてこんなに美味しい料理が食べられるのはほんとそれこそ死ぬほど幸せだし、無かったらきっと残念で淋しくて堪らないと思うけど…。でも、桂人に無理させるくらいならインスタントでもお弁当でも全然構わないっていう話だよ。実際桂人が来てくれるまではそんなご飯ばっかりだったんだから。」 僕が言うと桂人はまだ少し淋しそうな顔でふるふると首を振った。 きっと、無理はしていない、と伝えたいのだろう。 そのままそっと、僕の胸に抱き付くように身を寄せる。 薄手のロングTシャツの上からでも分かるほど線の細い彼の身体を抱き締め返しながら、 「ありがとう。でも、くれぐれも無理はしないで。」 と伝えると、彼は胸の中で小さく小さく頷いた。
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