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明るいユニコーンカラーの鎖骨まである髪をツーサイドアップにして英 紅丸は家を出る。
赤いリボンをつけた猫のキャラクターの刺繍が背中に入ったコーラルピンクのブルゾンにホワイトデニム。
ロー・シティ歓楽街は昼夜問わず賑わいを見せ、多種多様な人々が酒に、色に、博打に興じる。
今や街行く人たちは様々な人種と交配を繰り返し、どこの血が混ざっているのかはわかりにくい。
恋人たちは同性も異性も関係なく手を繋ぎ、肩を寄せ合い恋愛を謳歌している。
まだ夜は冷える春先、夜の街はネオンで埋め尽くされ、多くの看板が立ち並ぶ細い路地には、酒に酔い蹲る者や、ハメを外して性行為に及ぼうとする輩もいた。
「英、遅い」
金田 璃央がシールを渡す。
今日は『思七』と対戦だ。少年たちはここら辺でいくつかのグループに分かれている。
街の区画に合わせてグループの陣地があり、どれだけグループがその陣地を広げられるかが、今彼らの流行りのゲームある。
「あ、ごめんなさい」
紅丸はわざとすれ違った酔っ払いに爪の差ほどの小さなシールを貼り付ける。シールにはGPSが入っており、今日の対戦相手の『思七』は紫、紅丸たちのチーム『パピコ』は黄、これが各々のスマホに表示される。
自分たちのシールをつけた人間が相手の領土に入れば、その一定区画分自分たちのものになる陣取りゲームだ。
「『思七』の領土に反社の事務所があるんだよな。あれ、欲しくない?」
璃央のスキンヘッドには黒と緑のジオメトリックタトゥーが綺麗に入っている。
「いいかも」
そんな区画が手に入れば鼻が高い。紅丸も乗った。
街角を曲がるとショーウィンドウに映る自分たちが見えた。
紅丸の身長は150センチ程で、こぼれそうなタレ目を小さな輪郭が縁取り長い髪が揺れる。
その格好からしても少女のようだ。鼻の上に僅かにあるそばかすに舌打ちする。
二人はビルの壁の背にもたれ行き交う人々をチェックする。
「あれは?」
「一般人だろ」
「んー、女とか狙う?」
「いーけど数撃たなきゃ、きびしくない?」
そんなことを言い合っていると目の前に一台の車が止まった。黒塗りの磨き上げられた車体からスーツ姿の一人の男が降りてくる。
車が止まったスタイリッシュなビルの前から数人の男たちが現れ、なにやら話し出した。
男たちは普通の外見だが、雰囲気までは隠せず、凶暴な匂いが立ち込めている。
「あれは?」
璃央が小声で笑う。
「絶対そう、そんで絶対むり」
「いけよ」
「お前がいけ」
璃央がケツを蹴り、自分は物陰に身を隠した。紅丸はよろめき男たちの前につんのめる。
一斉に男たちが紅丸を見た。
紅丸は背中に汗をかいたが、引かなかった。後々チームの連中に馬鹿にされたくなかったからだ。
だが男たちのもつ圧倒的な空気は紅丸の声を震わせた。
「あ、あの、と、友達とはぐれて‥。連絡も取れなくなって‥。その、ここら辺で俺たちの仲間‥見ませんでしたか?」
とっさに嘘をでっち上げる。
「‥‥」
「ガキに用はねえよ」
一人の男が口を開いた。凄みのある声だ。
「あ、あは。ですよね‥」
紅丸の心はすぐ折れ、苦笑いを浮かべながら立ち去ろうとした。すると背の高いスレンダーな優男が、男たちの間から一歩前に出て、紅丸の目の前に立ち、胸までしか届かない小さな紅丸の顎を掴み顔を持ち上げた。
紅丸は男の予想外の行動に引き攣った笑みを浮かべる。
上質そうなスーツ姿のスレンダーな男は紅丸をゆっくり見たあと微笑むと、後ろにいる紅丸と同じくらいの歳の少年に声をかけた。
「友達探してるって。知ってる?」
「‥‥知りません。でも、こいつ、ここらへんで遊んでる奴らです。ゲームしてる。人にGPSつけて区画の取り合いしてる」
「俺たちもそのゲーム、混ぜてくれるつもりだった?」
あくまでスレンダーな男は優しい。
「いえ、そういうわけじゃなくて、ただ友達を‥」
経緯がバレて紅丸は焦った。
「友達ねえ。うん。話聞いてあげるよ」
スレンダーな男は周りの男たちに話を切り上げるよう促した。どうやらこの状況を楽しんでいるようだ。
紅丸の背中にはじっとり汗が浮かんだ。目の前の男は穏やかな笑顔を崩さないが、目の奥に冷たさが沈んでいるように感じたからだ。
「熀雅さん、相変わらず趣味悪いですね」
男の一人が軽口を叩きビルに入る。つられるように他の男たちもゾロゾロと戻っていった。
紅丸のスマホが鳴る。
「出ていいですか?友達見つかったかもしれない」
誰だか知らないけれど感謝した。これで適当に切り上げる理由になる。
「いいよ」
紅丸がスマホのロックを解き、届いたメッセージを見ようとした時、横から奪われた。
「うん。金田くんは他の人たちにシールを貼りに行くからここは任せるってさ」
「‥‥」
くそ。紅丸は心の中で舌を鳴らした。紅丸の心を見透かしたように、熀雅と呼ばれた品のある男は悪戯そうに笑った。
「俺たちにもシールを貼りたかったの?貼らせてあげようか。こっちおいで」
熀雅は紅丸のスマホをそのまま持ち繁華街の裏通りに向かった。紅丸は渋々ついていった。
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