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「ぶっちゃけさぁ、服部はどう思う? 今回の大賞受賞作」
「どうとは?」
「なんつぅか、タイトル以上のもんが中身になんもないっていうか。まんまじゃん、て俺は思ったんだけど」
「だからいいんじゃないですか? 分かりやすくて」
「物語くらいはノーストレスで、ってか?」
「本当に疲れてるときって、難しい話読めないんですよね。さらっと読めてスカッとする話がウケるのは、そういうことじゃないですかね」
「あー、そういえばうちの両親も最近、時代劇ばっか観てるわ。悪役が顔で区別できて最後は勧善懲悪だって分かってるから、安心して観れるんだと」
それは分かりやすい実例だと、服部は思った。原因が疲労にせよ老化にせよ、人間は脳の処理能力が落ちると、安易な娯楽を求めるようになるのかもしれない。
「編集長ももういい歳だし、『市場のニーズ』とか言いつつ自分が分かりやすいのを選んだのかもな」
「作者が五十代のせいか、異世界もどことなくノスタルジックでしたしね」
受賞作はタイトルのとおり、異世界に転生した主人公が、沈むと元の世界に戻ってしまう復活の泉を回避すべく奮闘するコメディタッチのファンタジーだ。悪役として登場するのは上司と嫁で、若いヒロインと比較して嫁をこき下ろすなど、女性の読者層を完全に無視した男性目線のストーリーになっている。
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