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天野ジャック
「皆様、お待たせいたしました。それではここで、大賞を受賞された天野ジャック先生にインタビューしたいと思います。天野先生、よろしくお願いいたします」
編集長の話が終わり、スタジオに戻した画面の中で新川が笑顔を見せる。服部が共有画面を二分割にすると、右側に映った天野ジャックはお面を着けたままわずかに頭を下げた。
「まず、受賞のお知らせをどう思われましたか?」
『とても嬉しかったです。長年の苦労がやっと報われたと思いました』
質問に答えたその声に、服部はギョッとした。ボイスチェンジャーを通したらしき不自然な高音。ざらりとした違和感が胸をかすめる。
(特別な意図もなく、そこまでするか……?)
新川も一瞬顔色を変えたが、答えは台本からズレていない。すぐに平静を取り戻し、次の質問に移った。
「受賞の喜びを、まずどなたに伝えましたか?」
『天国の両親に。小説の主人公レイの家庭と同じように、私たち夫婦は今やほとんど話もしないので』
予定と違う返答に、新川が笑みを貼り付けたまま調整室にちらりと視線を投げる。服部はヘッドセットの通信をオンにした。
「答えに関係なく、台本に沿って次の質問をしてください」
新川が目だけで了承し、インタビューを続ける。
「読者の共感を生む主人公の描写が秀逸でした。どのようにして生まれたキャラクターですか?」
『レイは天野の分身です。作者自身、会社では無能、家では家事や親の介護を全くせず、 休日には一日中ゲームと執筆とSNSばかりしていましたから』
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