星乃まい

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星乃まい

「皆様、はじめまして」  画面に映し出されたのは、笑みを浮かべた中年の女性だった。音声も機械処理された高音から、彼女の肉声に変わっている。 「女ぁ?! 天野ジャックって女だったのかよ?」 「いや、打ち合わせでもプロフィールも男でしたよ」 「じゃああれか? コンビ作家ってやつ」 「今まで、そんな素振りは……」  服部が凝視する画面の中で、彼女は口紅で艶めく唇を開いた。 「私は天野ジャックの妻です。ですが、受賞作の生みの親でもあります。なぜなら、あの話の骨子を考えたのは私だからです」  何か言うべきかと、新川が目線で問うている。服部が返事をする前に、画面の中の彼女は続きを話し始めた。 「私自身、以前は『星乃(ほしの)まい』というペンネームで投稿サイトに小説を投稿していました。悪質な読者に執拗に酷評され、筆を折ったのが二年前です。ちょうど義父の介護で忙しかった時期で、私は創作から離れざるを得ませんました。  その後、夫の不注意により、私の作品を攻撃していたのが彼本人だったと判明しました。そして先日、私が非公開にしたその小説の設定を、彼が盗用していることを知ったのです」  それが今回の受賞作です。彼女は静かに、しかしはっきりと言った。 「夫とは、お互いに小説を書いていることが縁で結婚しましたが、相手の創作に干渉しないことがルールでした。まさか彼が私の作品を読み、他人を装って酷評し、盗んだ設定をあんなふうにアレンジして賞に応募するなんて、思いもよりませんでした」 「盗作かよ……」  低い呟きに横を見ると、千里が眉間にしわを寄せて画面を見つめている。
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